「感情」が引き継ぎのモチベーションを下げる

明るい未来を重点的に考えていれば、去っていく場所のことはおろそかになってしまう。うまくいっていた職場や関係良好であった同僚たちが相手でもおろそかになる。ハラスメントを受けた職場や顔を見るのも嫌な上司が相手ならなおさらである。目を背けたくなる。

僕らには感情がある。ポジティブなものであれ、ネガティブなものであれ、強い感情に行動は影響を受ける。

キャリアアップを考えてウキウキになっているのに踏み台にする元の職場に配慮できるか?

出社するのも嫌だったハラスメント職場から、やっとの思いで脱出できるのに、その職場が円滑に動くように詳細な引き継ぎ書を作れる?

無理である。感情を持っている僕らには、なかなか難易度が高い。

僕の最初の転職は、まったく異なる業界への転職だった。運輸系から食品系。苦戦も予想したが、思いの外スムーズな転職になった。営業職の中途入社で、期待された数字は出せたと自負している。

スムーズな転職ができた要因は、いろいろな要因が思いつくけれども、退職がうまくいったことが大きかった。うまくいったのは、もめるような辞め方にならなかったとか、引き継ぎが万全だったとか、そういうレベルではなく、次の仕事(僕の場合は違う業界だった)で働くことを想定した退職「活動」ができたからだ。

書くことで感情といったん距離を置いた

僕のアイデアではない。僕より前に退職した先輩が、退職していく際に次のステージを考えた退職活動をしていたのを参考にしたのだ。

引き継ぎを過不足なくやりきったうえで、世話になった取引先や見込み客、一緒に仕事をしてきた同僚たちへの挨拶に加えて、在籍時に一度だけ取引した業者の担当者や一度だけ一緒にプロジェクトをやっただけの社内の関係者といった、顔と名前が一致するかどうか怪しい人物まで、退職にかこつけて挨拶をしていったのだ。

丁寧な退職活動であった。その先輩が過去の手帳をチェックして、退職面会リストを作成し、それに忠実に履行していたのが強く印象に残っていた。その先輩が別の業界でも営業マンとして活躍できた理由は、丁寧な退職活動にあったのは間違いないだろう。

とはいえ辞めていった先輩が、職場に対する不満がゼロだったわけでも、次のステージのことを考えてふわふわしなかったわけでもない。

彼は感情を切り離すのではなく、感情といったん距離を置いたのだ。その方法が書くこと、手帳への書き出しであった。挨拶すべき人のリストアップに加えて、在職中に関わった仕事をすべてリストアップしていた。退職転職時は、実績になるような「うまくいった仕事」に注目しがちだ。だが、あえて、うまくいかなかった仕事もリストアップして、当時のエピソードを抽出しておくと、失敗を糧にできるようになる。