能力を引き出し、高める「日々の経験」

人間というのは、生まれたときから何でもできる天才であったり、逆に一生、何の能力もないままでいることは絶対にありません。私たち人間の能力は、日々の経験によって必ず育っていくものだからです。

私たちの「能力」を生み出しているのは、言うまでもなく「脳」です。脳には、異なる種類の「神経細胞」が1000億個以上も存在しています。

これらの細胞にはそれぞれの働きがあり、同じような働きをする細胞同士が集まって集団を形成しています。集団で活動することによって、複雑な脳の働きを支え、能力を生み出しているのです。

そして、同じような働きをする細胞集団は、脳の中でそれぞれ集合体としてまとまって配置されています。私はこれを脳番地と呼んでいます。

すべての人間が「個性的な脳」を持っている

脳の神経細胞からは「神経線維」という回路が伸びています。これは、神経細胞が発する情報を、ほかの神経細胞に伝達するためのケーブルのようなものです。

神経細胞が活発に働くと、神経線維はだんだん太くなって、ネットワークができていきます。その様子をMRI画像で観察すると、まるで樹木の枝が伸びているように見えるので、私は「枝ぶり」と呼んでいます。

この枝ぶりの数や太さ、成長の度合いは人によって異なります。そのため、一人ひとりの顔が違うように、一人ひとりの脳の形も違います。人間の脳にはひとつたりとも同じものはない、といってもいいくらいなのです。

脳には個性がありますが、それは生まれながらのものではありません。

遺伝子によって、ある程度は成長の順番が規定されています。しかし、人生経験を積み重ねるうちに、脳は生まれ持った神経細胞の遺伝子を超えて成長していく、ということです。

脳は20代から40代にかけての時期に、非常に個性的になっていくことがわかっています。脳が「成長したい」という、その勢いが最も強くなるのがこの年代なのです。