2024年末までに生産開始予定

11月9日、半導体大手TSMC(台湾積体電路製造)は、半導体製造受託の子会社Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(以下「JASM」)を熊本県に設立し、日本のソニーセミコンダクタソリューションズ(以下「SSS」)がJASMに少数株主として参画すると発表した。SSSはJASMに約5億ドル(約570億円)、を出資し、20%未満の株式を取得。2022年から工場の建設に取りかかり、2024年末までに生産を開始する予定だ。当初の設備投資額は約70億ドル(約8000億円)となる見込みで、「日本政府から強力な支援を受ける前提」とされた。

台湾のシリコンバレーと呼ばれる新竹市にある、半導体受託生産の世界最大手TSMCの本社ビル(2017年10月5日)
写真=ロイター/アフロ
台湾のシリコンバレーと呼ばれる新竹市にある、半導体受託生産の世界最大手TSMCの本社ビル(2017年10月5日)

翌11月10日、萩生田光一経済産業相は閣議後会見で、「TSMCによる先端半導体製造拠点への投資は、わが国のミッシングピースを埋めるものである」「必要な予算の確保と、複数年度にわたる支援の枠組みを速やかに構築したい」と述べた。日本政府はTSMCの誘致に4000億円規模の補助金を出す予定だとみられている。

そして12月20日、台湾経済部(日本の経済産業省に相当)投資審議委員会は、TSMCが最大2378億2080万円を日本に投資し、半導体の受託生産、販売、テスト、回路設計支援を行う事業を認可した。発表によれば、日本の熊本県菊陽町に22/28nmの12インチ半導体生産工場を建設。SSSとの合弁事業で、TSMCの暫定株式保有率は最大81%という。

「日本側から誘致した」という否定しようのない構図

ここで注目したいのは、TSMCやソニー、荻生田経産相によるアナウンスと、台湾当局による事業認可との時系列的な順序だ。

台湾では外国からの投資案件や、自国企業による外国への巨額投資について、政府の許可が必要になる。これは技術の流失や産業スパイ活動の防止、国家の安全を考慮し、台湾の法律で定められている手続きで、特に中国資本による投資、台湾企業による中国関連の投資は厳しく審査される。

つまり日本側のお膳立てを受けて、TSMCが台湾政府の投資審査を受けたという点が重要なのだ。TSMCと台湾は日本側の要望に応じて、投資を審議している。台湾側が日本側の対応に不満を抱いたり、技術流失の不安を感じたりすれば、台湾政府として投資を認可しない選択肢もあったのである。主導権は、完全に台湾側、TSMCにあったのだ。

したがって、「一世代以上前の平面型22/28nmプロセス、ソニーの20%未満の投資参加、50%近い政府援助」という九州新工場の事業スペックは、日本側がTSMCに提案した内容(の一部)だと考えてよいのではないだろうか。