「旅行はどうなのか」への煮え切らない答え
「人流抑制」を真正面に掲げた場合、経済は止まる。デルタ株の時には県境を越えた旅行の自粛や、テレワークの推進などを求めたため、旅行業界や飲食業界などは大きな影響を受けた。一方で、昨年秋には人流が増えてもデルタ株感染者が減少を続けるなど、人流と感染拡大の関連性を示す明確なエビデンス(証拠)に乏しかったのも事実だ。一方で、多人数との会食で感染している例は多い。そうしたことが、尾身氏の発言の背後にあるのだろう。
だが、この発言に慌てふためいたのは政府だった。官邸幹部は「政府が人流の抑制は不要だなどと言えるはずがない」と頭を抱えた。
「旅行はどうなのか。良いですか、悪いですか」――。衆議院予算委員会で質問に立った立憲民主党の長妻昭・元厚労相は、そう疑問をぶつけた。これに対して答弁に立った山際大志郎経済再生相の答弁は何とも煮えきらないものだった。
「都道府県は地域における感染状況等を踏まえ、必要な措置を講ずるものという話でございますから、これというふうに決められているものではない」
さらに長妻氏が畳みかけると、山際氏はこう答えた。
「不要不急という言葉の意味をどう捉えるかによると思います。(中略)やはりそれはケース・バイ・ケースなんだと思う」
岸田流の責任回避術「のらりくらりと回答を避ける」
日頃一緒にいる家族が旅行する場合、何ら制限する必要はない、と答えたのだ。家族旅行は不要不急の外出には当たらない、ということのようなのだ。長妻氏も「いま初めて聞いた」と、半ば呆れるしかなかった。政府自身、重点措置を出すことで、注意喚起はするものの、具体的にどんな行動を制限するべきなのか、右往左往している感じだ。
政府がのらりくらりと明確な回答を避けているのは、人流の抑制を明確に打ち出した場合の国民の反発を恐れているからに他ならない。欧州では外食の場合などにワクチン接種証明の提示を義務付ける政策を打ち出したことに国民が強く反発、デモにまで発展している。日本でもワクチン接種証明書を提示すれば制限を解除するという手法も取ってきたが、政府は強制を避けてきた。
国が半ば強制的に「人流」を抑えようとすると、「重症化しないのになぜだ」という声が噴出しかねない。判断はそれぞれの自治体の首長に、というのが無難ということになる。岸田流の責任回避術といったところだろう。