「不調」を安心して語れるカルチャーが、突然の休職を防ぐ
では、マネジャーとしてどう対応したらいいのでしょうか。産業医として関わるマネジメント研修でもよく「部下や同僚の不調にどう気づいたらいいのか」と質問されます。
もちろん、普段の観察が重要であることは言うまでもないのですが、過剰適応傾向のある人は、心配をさせまいという気持ちが強く、演技もうまいため、周りも簡単には気づけません。冒頭の調査でも、「隠れストレス負債者」とされる方の95%が、口癖のように「大丈夫です」と言ってしまうという結果が出ていますが、このような傾向を象徴するものだと思います。とにかく見つけるのが難しいのです。
さらに、実施が義務付けられているストレスチェックなどでも、30%のビジネスパーソンが過去に“忖度回答”した経験があることが明らかになっており、うまく「かわされて」しまうことも多いのです。
そういう点では、声や自律神経など生体情報を活用したストレスチェックのアプリなどは、開発者によって精度にばらつきはあるものの、回答を自由に操作できないため、発見可能性や介入の接点が増えるという意味でも有効打だと思います。
上司は部下に「疲れた」と言おう
それに加えて、「上司であるマネジャーの皆さんから、『疲れた』『調子悪い』といった言葉をどんどん使ってください。その方が、部下が安心するんです」と伝えるようにしています。
部下にとって、不調であることを伝えることはリスクです。評価が下がったり、仕事をもらえなったりするかもしれない。馬力のある完全無欠の超スーパーマンのもとでは、部下はなおさら「しんどい」を共有しづらくなります。しかし、マネジメントの視点からすると、部下の本当の「HP」が把握できていないこともまた大きなリスクだと思います。
精神科医の松本俊彦先生は「誰かにつらい気持ちを告白することは、清水の舞台から飛び降りるほど勇気の必要なことである」と言います。もし上述のタイプの方が、不調であることを明かしてくれたとしたら、それは非常に勇気のある援助希求行動です。
そのことを理解した上で、「つらい中で相談してくれて、ありがとう」とまずは援助を求めてくれたことそのものを承認する態度をとることができれば、相談者は大きな安心を得られるでしょう。
人間であれば、好調不調の波があって当然だと思います。ビジネスの世界では、馬力がある人や失敗しない人が評価されがちですが、こうしたある意味での「弱さ」に対するリテラシーをもっていたり、弱さを開示できることといった、少し違った種類の「強さ」が評価されてもいいのかもしれません。