職場でメンタル不調になり、ある日突然休職する人、突然休職するメンタル不調者を出しやすい組織にはどんな特徴があるのでしょうか。心療内科医の鈴木裕介さんは「他者からの期待に完璧に近い形で応えられるがゆえに、高い評価を受けてきた人はメンタルヘルスリスクが高い」と言います――。
オフィスでストレスを抱えた女性が目をぎゅっと手で押している
写真=iStock.com/VioletaStoimenova
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そもそも人はストレスを自覚しにくい

ストレス分析アプリ「ANBAI」を運営するDUMSCOの調査によると、ビジネスパーソンの約20%が、高ストレス者であるにもかかわらず、本人が自覚していないために、ある日突然休職するリスクの高い「隠れストレス負債者」であることが明らかになりました。なぜこうした主観評価と客観評価で乖離かいりが発生するのでしょうか。

隠れストレス負債者の割合
出所=DUMSCO

「心身の疲労」という言い方をしますが、精神的な疲労が積み重なったときは、最初に身体の症状がきます。頭痛とか胃痛、吐き気のような症状が出てくるわけですが、そのときに「心のストレスがかかっているかもしれない」と自覚できる人はあまり多くないでしょう。

ストレスを感じると、そのストレス状態に対抗するために、副腎という臓器からアドレナリンやコルチゾールなどの抗ストレスホルモンと呼ばれるものを出すことで、血圧を上げたり血糖値を上げたりして、その状況に対抗しようとします。

その期間は、ストレスがかかっている状態ではありますが、自分ではストレスによる反応を実感していません。むしろ、パフォーマンスが上がったりすることもある。この「ストレス反応が自覚しづらい」ということがストレスの本質的な問題でもあります。

ストレスは限界でも頭では「まだできる」と思っている

そして、パフォーマンスを維持するための抗ストレスホルモンが消費され続け、枯渇していくとともに、徐々に身体の症状、そして心の症状があらわれてくるわけです。

たとえば、私たちのクリニックの頭痛外来に頭痛が主訴でやってきた方のおよそ半数くらいは、心理的なストレスの指標でもかなり高い点数が出ます。

また、朝の頭痛を訴える人の3割程度が「うつ状態」を呈していたという欧州の調査結果もあるように、頭痛とストレスはとても深く関わっています。

人間は自分の疲労を頭で考えて判断しようとしますが、頭で考えていることと身体が感じていることにはしばしば乖離が生じます。たとえば、「やりがいのある」はずの仕事に行く途中、電車の中でなぜか吐き気やめまいが出てしまう、といったケースがありますが、それは、頭では「まだできる」と思っていても、ストレスが限界を超えて身体の方が先にSOSを出しているわけです。しかし、身体の症状が出ているからといって、「自分はメンタルをやられているかも?」と疑うのはなかなか難しいことだと思います。

こうした乖離が、人がストレスを自覚しづらい理由の一つであり、実施が義務付けられているストレスチェックで、時には高ストレス者が見落とされる要因でもあります。