日本の閉鎖性を感じた武蔵野市の条例案の否決

2021年12月21日、東京都武蔵野市が提出した外国人の住民投票を認める条例案が、市議会で否決された。この条例案は、投票資格を3カ月以上市内に住所がある18歳以上とし、実質的に外国籍の住民も日本国籍の住民と同じ要件で参加できるとするものだった。

多様な人種の子供
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ちょうど12月9日には、米・ニューヨーク市議会が30日以上市内に住所がある永住者と労働許可保持者に30日の居住を条件として外国人地方選挙権を認めたことがニュースとなった。それと比べると、同21日に武蔵野市が住民投票条例を否決したことは、改めて日本の閉鎖性や多様性の乏しさが印象づけられる出来事であった。

ニューヨークの事例は、30日と在留期間は短いものの、永住許可や労働許可を認められた者に限定する点で、在留資格類似の要件を定めている。これに対し、武蔵野市の場合は、3カ月という住所要件を基に広く外国人住民に認めるものである。地方選挙権と住民投票権の違いはあるものの、制度設計が甘かったので批判された。とはいえ、「外国人だから」という理由で一律に地方選挙権や住民投票権を認めないのは、多様性を認め合う共生社会を目指す観点からは不合理である。

外国人住民に住民投票権を認めることは、日本の憲法上も法律上も問題はない。1995年の最高裁判決にあるように、地方選挙権を「永住者等」に認めることは憲法上可能だが、法改正が必要である。これに対して、条例に基づく住民投票には、法改正は不要である。

武蔵野市だけが執拗に取り上げられた理由

外国人に住民投票権を認める自治体が既に存在する中で、なぜ今回「武蔵野市」の条例案だけが執拗しつように取り上げられ、注目を浴びたのであろうか。

直接的な要因としては、武蔵野市も選挙区とする自民党の長島昭久衆議院議員をはじめ、何人かの国会議員が反対意見をメディアで公表し、街頭演説も展開したこと、新聞の社説が賛成、反対の立場から書かれたこと、ヘイトスピーチ団体がこの問題を格好のターゲットとしたことなどが挙げられる。

構造的な要因としては、2019年4月から特定技能1号の在留資格での外国人の受入れがはじまり、従来の国際貢献を建前とする技能実習生とは違い、労働力の不足する分野での外国人労働者の受入れがはじまったことに伴い、今後の外国人の増大に備えて「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を国として発表したことが関係していると思われる。

少子高齢化を見据えて、国としても外国人との共生社会の実現のための政策が必要と判断した上で外国人住民の社会参加を促す政策が増えている。こうした中で、自治体としても多様性を認め合う共生社会では住民投票への外国人住民の参加も必要と考えはじめている流れに対して、これを阻止したいという人が、ある種の危機感を覚えていることが背景にあるのではないだろうか。

新たな制度の導入に際しては、何事も偏見や固定観念から反対する声もある。かつて女性の政治参加が反対された。しかし、今は女性の政治代表の不足が危惧されている。既に市町村合併の是非を問う住民投票など、外国人住民の参加した事例も国内に多くある。これからの地域における共生社会の担い手として、住民投票の資格をどのように定めるのかは、それぞれ一長一短で、自治体の自由な判断に任されている。否決後、松下玲子市長は、「外国人に投票権を与える上での一定の要件をどう置くのか」について条例案を見直した上で再度提出したい意向を明らかにしたという。

そこで、国内の住民投票における外国人住民の投票資格要件について整理してみよう。