「住民としての判断ができるか」を国籍の有無で断じるのは不合理
武蔵野市をはじめ、多くの自治体が取り組むようになった多様性の理念は、今日、ヨーロッパ諸国の多くの企業や自治体が加入している「多様性憲章」でみられるように、ジェンダー・性自認、性的指向、人種・国籍・民族的出身、宗教、障害、年齢、社会的出身による差別をしないことを意味する。
理念上、住民投票での国籍差別を解消する上では、日本人と同様の3カ月の居住要件とすることが望ましいという考え方も理解はできる。住民登録の要件も、ちょうど3カ月以上の居住予定の外国人が住民登録をしているのであって、住民自治の原理からは、①の3カ月の要件が適当かもしれない。
しかし、多くの自治体は、さまざまな考慮要素から、その自治体に合った現実的な対応をしている。住民投票制度の投票資格をどのように定めるのかは、あらかじめ答えが1つに決まるものではない。多様性や平等をいうのであれば、今日、一般的な18歳の年齢の要件も別の見方もありうる。現に、大和市は、16歳以上であり、西和賀町は、15歳以上である。何歳から投票を認めるのがベストかは一概にいえないものの、制度上、十分な判断能力として一定の年齢を要件とすることに合理性はある。
かつての財産や性別による投票権の排除が不合理となったように、単に国籍の有無が不合理となるのは、「住民としての十分な判断が可能かどうかという実質的な基準」に合わないからである。子供の判断能力の成熟を待つように、新規入国者の判断能力の成熟を待つために、一定の在留期間や在留資格を要件とする制度設計は、実質的にみても、必ずしも不合理とはいえない。
諸外国で住民投票権が認められる要件
今日、何らかの形で外国人の地方選挙権を保障している国は65カ国に及ぶが、そのうち住民投票制度のない国もある(*1、*2)。国外の住民投票資格の主な状況を国際的な共同研究のGlobal Citizenship Observatory を手掛かりに先ほどの6類型に当てはめてみる。
①アメリカは一部の自治体で認めるだけだが、サマセット郡が14日、タコマ・パーク市が30日といったように、国民と同様の短期の在留期間を要件に外国人住民にも認めている。冒頭のニューヨーク市の地方選挙権もそうだが、「代表なくして課税なし」という独立戦争のスローガンが民主主義の理念として引き合いに出されるアメリカでは、納税者と投票者を一致させることを好む傾向にある。なお、フランスなど一定のEU諸国は、EU市民にかぎり国民と同様の在留期間を要件として住民投票を認めている。
②ニュージーランドが1年の在留期間を要件とするが、留学生などの短期滞在資格は除かれている。フィンランドとペルーは2年の在留期間が要件である。
③スウェーデンやデンマークは、3年の在留期間が要件である。
④オランダ、ベルギー、エクアドル、コロンビアが、5年の在留期間を要件とする。
⑤日本に特有のタイプであり、国外に類似の例はなさそうである。
⑥リトアニア、スロバキア、スロベニア、ハンガリーが永住外国人に認めているが、いずれも永住許可に必要な居住期間は5年である。
なお、その他、ベネズエラが10年の在留期間を要件とする。スイスのジュラ州が10年、ジュネーブ州が8年、フリブール州が5年の在留期間を要件としている。
したがって、国民と同様の居住期間でなく、住民としての十分な判断が可能なために一定の在留期間や在留資格を求める制度設計の方が合理的と考える場合が少なくないのが現状である。
国内外の事例を基に検討すると、永住外国人に限定する方式は、日本の場合、原則10年の居住要件の点で、帰化と比しても長すぎる問題が気になる。
そこで本来的には、永住許可の居住要件を5年以下に短縮した上で、永住外国人に住民投票権を認めることが、適当と思われる。現行の永住許可制度の下では、3年ないし5年の居住期間を要件とすることも次善の策といえよう。一方、3カ月というのは、武蔵野市における今回のような反対意見をまねくので、否決もやむをえなかったのかもしれない。武蔵野市は、「多様性を認め合う支え合いのまちづくり」のための、現実的な制度設計を検討し直し、修正した条例案の再提出を期待したい。