そして、単なる「電子データ」に、特別な愛着を感じてしまい、その「充実」を試みることで、自己の同一化を図ろうとしてしまうのです。そこに、いつの間にか錯覚におちいる、人間の認識の危険性が潜んでいるように思えます。

そもそもネット上にあるのは、あなたではありません。

たとえば猫のキャラクターなどでやりとりする……、挨拶を交わしたり、感謝を表現したり、そうした交流は楽しいものですよね。もちろん否定する気はありません。

しかし、そのかわいいキャラクターを自分、あるいは自分の分身だと思い込むような心の働きがあることには、注意しておいたほうがよさそうです。

自分を見失わないために

素朴なやりとりから、その表現自体を自分と同一視する感覚が生まれ、そして「自らのアカウント」を「自分」と感じるようになってしまうまで、そこに連続性があることも、自覚しておいた方がよいでしょう。

いくら自分のページを着飾っても、いくら「いいね」をもらっても、あなた自身が持つべき本来の自信にも、深い安らぎにも、最終的にはつながらないのです。

丸山俊一『14歳からの個人主義』(大和書房)
丸山俊一『14歳からの個人主義』(大和書房)

最近、ネットの中で不安や疎外感を抱くことで生まれたと思われるような事件も生まれています。事件にまでいたらずとも、自尊心を傷つけられ、本来の自分を見失う人も増えています。

スマートフォンは、使い方を誤らないよう注意が必要な、現代の「鏡」だと言えるのかもしれません。

では、こうした錯覚から抜け出し、いたずらに心を弄ばれてしまうことがない自分を維持していくにはどうしたらよいのか? こうした時代だからこそ、社会との関係性を保ちながら「自分を持つ」ということの本当の意味と大事さを、あらためて考えてみてほしいと思います。

『14歳からの個人主義』では、先人たちの思想をヒントに考えていきます。この本が、皆さんが自分らしく生きるための一助になることを願っています。

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