※本稿は、鏡リュウジ『運命を味方につける魔法の言葉』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
「魔法」の世界は実在する
子供のころを思い出してほしい。転んで膝を擦りむいたとき、そばにいた優しい誰かがあなたにこう囁やいてくれたことはなかっただろうか?
「ほらほら、大丈夫、大丈夫。痛いの、痛いの飛んで行け!」
その人の優しい言葉で、幼かったころのあなたの痛みが少しでも和らぐような気がしたのなら……それは立派な魔法体験だ。人類最初の「魔法」は、きっとこんなところから始まったのだと僕は思う。
考えてみれば、これはとても不思議なことだ。優しさの呪文で、本当に肉体的な痛みに変化が起こる。ちょっとした風邪くらいなら症状が軽くなるかもしれないし、本当に厳しい状況であっても、愛する人からの「大丈夫」という一言が、精神的にも肉体的にも大きな支えになるということが実際にある。「魔法」は実在するのだ。
魔法とは、「愛する心」が生み出す神秘
「魔法Magic」という言葉の定義は実にさまざまで、学問的にも一致したものはないが、現代の魔法使いの代表ともいえるアレイスター・クロウリーやダイアン・フォーチュンらの言葉を借りると、「魔法」とは「意のもとで変化を引き起こす術」のことだとされている。
この定義によれば、たとえばメールを出すことも本を書くことも試験勉強をすることも、全部が「魔法」だということになる。
確かに、あなたの努力が起こす小さな奇跡は立派な魔法だということになるだろう。そしてそのような営みは、現在は科学、技術へと成長して、大きな力を振るうようになっている。
ただ、「魔法」には「科学」とは大きく違う点がある。冒頭の、「痛いの、痛いの飛んで行け」の「呪文」を思い出してみよう。
この呪文は、あなたが心から信頼し、愛する人が「心を込めて」つぶやくときに最大の力を発揮する。よほどのことがなければ、機械的に録音された音声を流しても、思うような効果が得られることはない。
科学技術は、いつ、誰がどんなふうにやっても同じような効果がなければならない。気持ちの入れ方一つで列車が走ったり走らなかったりしたのでは、現代生活は大混乱に陥ってしまうだろう。一方で、魔法は、「人の心」が大切なキーになっているのである。