れんが造りの駅舎や手旗式信号もまだまだ健在

一方の英国ではどうだろうか。40年ほど前から、時速200キロを超える列車が在来線をかっ飛ばしているが、主要都市間を結ぶ新幹線のような高速鉄道専用線はいまだに存在しない。かろうじて、欧州大陸との直通列車「ユーロスター」が走るロンドン―英仏海峡トンネル(ユーロトンネル)間が「ハイスピード・ワン(HS1)」という高速専用線として整備されている程度だ。

HS2の完成予想図。白地に青い線の塗装が東海道新幹線の「のぞみ」を感じさせる
提供=日立製作所
HS2車両の完成予想図。白地に青い線の塗装が東海道新幹線の風情を感じさせる

訪英する日本人観光客は「ハリー・ポッターに出てくる駅が実際に使われているとは!」と喜んでくれるが、多くの駅舎が19世紀にできたれんが造りだったり、線路のインフラが見るからに古かったりと、「新しいものが良いもの」と考える若い世代にはあまり自慢できるものではない。

なぜこうしたことが起きているのだろうか。英国では、19世紀初期に蒸気機関車(SL)が発明されてから100年ほどの間に、基本的な鉄道ネットワークが完成した。保守点検の基準は19世紀から大きく変わっておらず、「使えるものは使い続ける」という考え方だ。結果、物持ちの良い鉄道マンたちのおかげで“歴史ある鉄道インフラ”を使い続けることができた。

地方路線に行くと、特急の運転士が手旗式の信号を確認しながら、時速160キロを超えるスピードで走り抜けたり、ローカル線では係員の目視でレールのポイント交換が行われたりしている。

車両についても同じようなことが言える。近距離路線では新しい技術を搭載した車両更新が行われる一方、車齢40年を超える車両が「イギリス最速の列車」としてつい数年前まで最前線で働いていた。パディントン駅にやってきたM子さんは、この古い車両の排気ガスを思いっきり吸わされてしまったわけだ。

日本の新幹線を作った日立が請け負う

英国政府もこうした前近代的な鉄道インフラや車両をどう更新していくか、頭を悩ませていた。そこで、主要幹線の長距離列車で使われている老朽化が激しい車両を置き換えるべく、「インターシティ・エクスプレス・プログラム(=IEP、都市間高速鉄道計画)」と銘打ち、実現に向けて政府内で調整、メーカー各社に入札を求めた。

それに手を挙げたのが日立製作所だ。日本の新幹線車両を過去50年以上にわたって製造してきた実績を引っ提げ、2012年7月、IEPに使われる車両「クラス800シリーズ(以下、シリーズを略す)」(122編成、計866両)を英国政府から受注した。