経済的に行き詰まっていることを金正恩が認めた
特別調査委員会のトップの肩書だけを見て、「金正恩が日本人拉致問題を解決する気がある」と判断するのは早計だった。
ではこれから日本はどうするべきなのだろうか?
今後、交換条件なしで日本側が納得できる返答を北朝鮮側が出す可能性は極めて低い。
2010年11月、金正日は平壌での会合で「3年以内に国民経済を1960~70年代のレベルに回復させ、(祖父・金日成主席の目標だった)『白米を食べ、肉のスープを飲み、絹の服を着て、瓦屋根の家に住む』を、真に成し遂げねばならない」と述べた。
しかし、2021年の朝鮮労働党第8回党大会で金正恩は「人民生活の安定や向上を図る」と強調し、前回の党大会(2016年)に打ち出した「国家経済発展5カ年戦略」について「掲げた目標は、ほぼすべての部門ではなはだしく達成できなかった」などと述べている。
つまり、ミサイルや核開発など戦略兵器の開発を推し進めたことで、国民生活が犠牲になっていることを暗に認めたのだ。北朝鮮経済は中国の支援だけでは再建できないところまで来ている。
無条件での全員帰国にこだわって時間を無駄にできない
こうした状況から、北朝鮮は日本の経済制裁の緩和を望んでいると考えられる。日朝国交正常化までは望んでいなくとも、事実上の日本からの援助を期待しているというわけだ。
岸田首相は「条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意」と述べている。
経済支援を行うことは、日本を攻撃するための弾道ミサイル開発の進展につながるという見方もある。だが、北朝鮮経済が行き詰まっている今こそ、制裁の一部緩和を交換条件に拉致被害者を全員帰国させるよう働きかけるべきだろう。むろん、経済的に利することのない方策があればベストだが、無条件での全員帰国にこだわっていたずらに時間を無駄にする猶予は残されていない。
岸田首相がまず着手すべきは、国家安全保衛部ではなく、労働党組織指導部のような権限のある組織が調査を行うよう要求することからだと筆者は考える。繰り返しになるが、北朝鮮を動かしているのは労働党だからだ。北朝鮮が動くのを待っていてもらちが明かない。首相自らが動かなければならないときがやってきている。