2010年1月4日、創業時代のオフィスのそばにあった愛宕神社(東京・港区)で恒例の参拝をすますと、ぼくは海外へ飛びたった。5日間でニューヨーク、ロンドン、パリを回る弾丸出張だ。
どんなに強行軍を組んでも、ぼくは月に一回は海外へ出る。東京の本社で仕事をするときは脳の中の“表CPU(中央演算装置)”をフル回転させるが、海外で街や市場を歩くと、もう一つの“裏CPU”が俄然動き出し、見るもの、聞くものすべてに刺激されて、インスピレーションが湧くからだ。
今回も収穫があった。一番大きかったのは、楽天の事業モデルがヨーロッパでも通用すると実感できたことだ。各地に点在する出店者が、顧客とインターネットを介してコミュニケーションしながら商品を販売していく。われわれは場を提供する。それが楽天のモデルだ。
ロンドンやパリで出店者になりそうな業者や店を訪ね、裏の小さな倉庫で経営者と話すと、「いけるね、ここ!」と感じられるところが多かった。食文化はあまり期待できないと思われていたイギリスも、ロンドンの市場を見て回ると、「意外とグルメなんだ」と発見があって、ユーザーの姿が見えてきた。
どの街も多様な文化に磨きをかけていた。それとは対照的に、日本については強い危機感を感じざるをえない体験をした。ヨーロッパで泊まったシティホテル。部屋にあったのはソニーでもパナソニックでもなく、サムスンのテレビだった。以前にはありえない光景だろう。
優れた技術力でモノをつくり、輸出する日本の成長モデルがもはや通用しなくなり、モノづくりだけでリードできる時代はもうすぐ終わる。アメリカが世界中の頭脳を輸入し、競争力の源泉としているように、日本も多様な人材の知恵を集めてユニークなサービスを生み出し、世界へ打って出なければならない。