早急な幕引きでは何も学べない
実際のところ美濃加茂市のスタンプラリーはかなりの経済効果があったという。若者文化であるアニメとコラボすることで若者の観光需要を生み出し、地方活性化につなげたいという自治体の目的は何ら非難されることではない。また、自衛隊についても、自衛官に応募する人の多くが男性であることから、どうしても募集ポスターが人気アニメの女性キャラクターになってしまうのは否めないことであろう。
問題なのは、こういった炎上が毎年のように繰り返されているにもかかわらず、炎上したアニメ(画)を起用した公的機関側が早急な幕引きを図って画像を差し替えたり削除したりして、「どういう経緯でこのキャラクターを起用したのか」「なぜ炎上を防げなかったのか」という議論が深まらずに問題が終息してしまうことだ。
『のうりん』の美濃加茂市は、批判が出た以降、問題となったイラストを差し替えてスタンプラリーを実施。滋賀の自衛隊も、指摘があってから「スパッツではなくズボンのつもりだった」と釈明後、ポスターを全撤去し、起用した側と抗議した側の溝が埋まらないまま一つの過去の事例となってしまった。これでは何も学ぶことができず、ほとぼりが冷めた頃にまた新たな炎上が生まれるという悪循環から抜け出すことはできない。
アニメ(画)キャラとVチューバーの違い
今回も、千葉県警という公的機関が、一般的にはアニメ画と解釈されるVチューバーを起用して問題となった点については似通った事例と言える。ただし、今回の件においては、これまでのアニメ画と同一事例と捉えてはいけない点がある。
それは、Vチューバーはあくまでアニメの「記号」を持ったタレント(人間)であり、人格を持っているということである。
アニメのキャラクターの場合、原画の動きや表情に合わせて声優が声を当てるため、そこに双方向性はない。ひとたび吹き込まれたアニメにいくら呼びかけようとも、キャラクターが返事をすることはなく、会話が成立することはない。
対して、Vチューバーの場合は、演者がアバターモーションキャプチャーでトラッキングしてリアルタイムに動きを加えており、視聴者の呼びかけに対して返事をしたり、動きを加えたりすることも可能だ。アニメという創作物ではなく、実在する一つの人格がVチューバーの背後にはいるのである。
今回、フェミニスト議連の抗議文によって、千葉県警が詳細な経緯の説明もせずに一方的に動画を削除したことは、このVチューバーの背後にいる演者の人格を無視したことにほかならず、これが擁護側からの非難の対象の一つになっているのである。
当初は「児童の交通安全に向けて」という共通目標に向けて戸定さんと走っていた千葉県警が、少しハレーションが起きたからといって雲行きが怪しくなったとたんにはしごを外すことはあってはならない。事業からの「降板」は、その原因がどちらにあるにせよ、そのタレントの今後の活動にも影響を及ぼすからだ。この点は、これまでのアニメ(画)キャラとは全く異なる点と言える。
千葉県警に取材した記事「千葉県警、Vチューバー『戸定梨香』の再起用示唆 『協定は現在も有効』」によると、幸い松戸市警察の戸定さんとの契約は継続しており、今後何らかの活動が再開されそうだ。千葉県警担当者によると、削除理由については、議連の抗議があったからだというが、「議連の意見を正当なものとして受け入れたわけではない」という。