アニメ(画)炎上はこれまでにもあった

公的機関がアニメ(画)キャラクターをポスター等に起用して問題となった事例は過去にもあった。ここでいうアニメ(画)キャラクターとは、アニメ作品の登場人物、またはアニメ画のような人物イラストを指す。

SNSの発達以後、最初に全国的な問題となったとされているのが、2015年に三重県志摩市が伊勢志摩サミットの開催に合わせて公認した海女を模したオリジナルキャラクター「碧志摩あおしまメグ」だ。

メグは大きな胸や太ももを露出させたいわゆるセクシーなキャラで、若者に志摩市の伝統産業である海女やサミットをアピールしたいという自治体の狙いがあったことからアニメ画キャラクターとして採用された(現在は有名声優が声を担当する動くアニメ画キャラとしてYouTubeでも活躍している)。

ところが、ポスターなどを見た海女や一部の地域住民から「胸を強調していて不快だ」「海女の仕事を馬鹿にしている」と声が上がり、SNSでの拡散も手伝って「炎上」状態になった。

岐阜県美濃加茂市でも同年、地元の農業高校を舞台にしたアニメ『のうりん』の女性キャラクターでいわゆる「巨乳」の少女・良田胡蝶をスタンプラリーポスターに起用したところ、同様の苦情が寄せられた。

2018年には自衛隊滋賀地方協力本部が、自衛官募集のポスターに、アニメ『ストライクウィッチーズ』を起用したところ、女性キャラクターのミニスカート姿や、そこから見えるスパッツが下着のように見えると問題視された。

他にも、2019年に日本赤十字社がポスターや献血への協力者への粗品として配布したクリアファイルに起用した漫画・アニメ『宇崎ちゃんは遊びたい!』のいわゆる「巨乳」の宇崎花のイラストを用いたところ、女性弁護士がSNS上で「環境型セクハラ」などと投稿し、問題となった。

このように、公的機関のアニメ(画)キャラクターを巡る問題は何度も何度も繰り返されているのである。

炎上の原因はキャラクターの背景・文脈を共有しないから

これらの炎上に共通しているのは、公的機関(またはそれに準ずる機関)がアニメ(画)キャラクターを使用したところにある。

そもそも炎上してしまうのは、漫画やアニメに精通していない人々がそのアニメのコンテキスト(文脈・背景)を共有せずに、「巨乳」「ミニスカート」「女子高生」といったアニメキャラクターを構成する記号だけに反応してしまうことが原因である。

漫画、アニメの作品数が膨大な数を誇る日本では、漫画、アニメのキャラクターは記号的な意味を付与されており、それによって他のキャラクターとの差別化を図っている。

例えば、眼鏡をかけているキャラクターは優等生やクールな性格の持ち主として理解され、フリフリのフリルのスカートや猫耳は、可愛らしいキャラクターの記号として理解されることが多い。普段からアニメ、漫画に接している人は無意識にこれらの記号を咀嚼し、それがどういう意味を持つものなのかを理解している。

ところが、それがひとたび公共空間でポスターなどに起用されてしまうと、そのアニメのストーリーやキャラクターの性格が一切排除され、「巨乳」「ミニスカート」という記号の部分だけが単品で強調されることになる。その結果、漫画・アニメ文化に普段から関わりを持たない人にとっては単なる「男性の性的興奮を惹起する要素」に映ってしまうのだ。

先ほどの『のうりん』の例で言えば、炎上の原因となった良田胡蝶は原作では活発なキャラクターとして描かれている。ところが、それらの情報が一切排除されたイラストを何も知らない人が見れば、大きな胸を強調した女性がまるで男性からの視線に顔を赤らめているような「性的なイラスト」として見えるというわけだ。