※本稿は、アンデシュ・ハンセン『最強脳 「スマホ脳」ハンセン先生の特別授業』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
集中力が切れた子どもは校庭を1周――久山葉子
私が子供の頃、スポーツも勉強も出来る子は「あの子は文武両道だ」とほめられたものです。どちらも出来るというのは珍しいことで、だからこそそんな表現があるのでしょう。たいていの子はスポーツが好きか勉強が好きかのどちらか――。多くの人がそう思っていたようです。
頭が良くなりたければ、もっと勉強するしかない。今でもそう考える人が多いはずです。しかし最近の研究では、なんと「運動をすることで頭が良くなる」ことが分かってきています。そんな方法は自分が学生の頃は聞いたことがありませんでした。
私が住んでいるスウェーデンでは、生徒の学力を上げるために学校で積極的に運動を取り入れるようになりました。初めてそれに気付いたのは、自分の子供が小学校1年生のときです。授業中に集中力が切れてうろうろするような生徒がいると、先生は「静かに座って勉強に集中しなさい」と注意するのではなく、「外に出て、運動場を1周走ってきなさい」とアドバイスするのです。
「勉強や集中力のためには運動」が常識に
私は子供からその話を聞いて驚いたのですが、間もなくその理由が理解出来ました。ちょうどその頃、スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンさんが『一流の頭脳』(サンマーク出版、原題 Hjärnstark)という本を書いて、スウェーデンでベストセラーになったのです。『一流の頭脳』は運動をすることで集中力、記憶力、発想力がアップし、ストレスにも強くなるという内容で、スウェーデンでは60万部を超える大ベストセラーになりました。なお、スウェーデンの人口は約1000万人、日本の13分の1です。
『一流の頭脳』は日本以外でも、19カ国で翻訳されました。ハンセンさんは一躍有名になり、講演やメディアのインタビューに引っ張りだこ、テレビで脳に関するドキュメンタリー番組のホストも務めました。
その3年後には、ハンセンさんの次の本『スマホ脳』(原題 Skärmhjärnan)が出ました。スマホがいかに精神を蝕み、集中力や記憶力を低下させているかという内容で、こちらもスウェーデンでベストセラーになり、日本でも50万部を超える「超」のつくベストセラーになりました。
スウェーデンでは大勢の学校関係者がその2冊の本を読みました。その結果、「勉強に集中したり、成績を上げたりするには、生徒に運動をさせることが大事」というのが、スウェーデンの学校では当たり前の認識になりました。体育の授業の回数を増やした学校もありますし、多くの学校が朝、授業が始まる前に20分程度運動する時間を設けるようになりました。