再エネへの過度な依存はリスクが大きい
さらに主要各国が比較的クリーンなエネルギー源である天然ガスに活路を求めた結果、ヨーロッパを中心に天然ガス価格が急騰したことも、天然ガスへの依存度が高いスペインの電力価格を押し上げた。
このようにスペインは、脱炭素化に向けた取り組みの優等生であったがために、電力価格の高騰という憂き目に遭ってしまったのである。
一連の事態を受けてスペイン政府は、9月に電気料金の付加価値税(VAT)を引き下げるなど、電力会社の反対にもかかわらず事実上の価格統制に乗り出した。
またスペイン政府は、フランス政府と共に電力価格の引き下げに向けた改革を欧州連合(EU)に提言したが、価格高騰は一時的とするドイツやオランダなど9カ国の反対で頓挫した。
2018年6月に発足したサンチェス政権は、同年11月に発表したエネルギー政策プランの中で、2050年までに電源の全てを再エネにするという目標を掲げていた。
この目標に、欧州でも筋金入りの環境派として知られるテレサ・リベラ議員(現第3副首相兼環境移行・人口統計大臣)らの意向が強く反映されていることはよく知られた話だ。
しかし今年の電力危機の経験が明らかにしたことは、出力が天候に左右されがちな再エネへの過度な依存は、深刻な電力不足につながるリスクが大きいということだった。
それでもなお、サンチェス政権は2050年までに電源の全てを再エネにするという目標を堅持する。肝煎りの政策をわずか3年で見直すことなどできないというところだろう。
再エネ100%実現に向けたハードルは高い
再エネ100%を実現するためには多額の資金が必要となる。とはいえスペイン政府が再エネ100%実現のために必要な資金を民間から調達できるかは不透明だ。
内外の投資家や金融機関の多くが、スペイン政府の再エネ政策に対して根深い不信感を抱いているためである。それは先述した固定価格買取制度(FIT)の廃止に伴う不手際に起因する。
ラホイ前政権は2013年にFITを廃止した際、本来ならば事業者に支払われる資金を、過去の分まで遡及して取り消した。そのため、収益を得るはずだった内外の投資家や金融機関はかえって多額の損失を被った。
こうしたことから、彼らがスペインの再エネ事業に対して抱く不信感は根深くなっており、政府が保証を付しても民間から資金を調達しにくくなっている。