「ちょっと重いです!」

「割れ物です!」

そんなふうにお互いに声をかけながら、あっという間に荷物を搬出していくのだ。荷物を持っていないときは走っている。僕もみんなのスピードについていこうと必死で階段を上り下りしているうちに、何年もかいたことのない量の汗がダラダラ落ちてきた。

搬出を始めてから終わるまでにかかった時間はおよそ1時間半。プロは一家の大荷物をこんな短時間で持ち出してしまうのだなあ。

引っ越し先の新築マンションにはエレベーターがあり、台車が使えるので作業は格段にラクになった。ただ、新居なので傷つけたり汚したりしないようさらに神経を使う。新居での作業前には、改めて靴下を履き替えるほどだ。

荷物の搬入にかかった時間は、やはり1時間半。最後にスタッフ全員でお客様にご挨拶し、作業は終了した。久しぶりに大汗をかいて、とても清々しい気分だ。

田中さんに僕の仕事ぶりについて尋ねてみると、「悪くない」とのこと。強いて課題を挙げてもらった。

「笑顔と返事、ですね。内林さんが作業に慣れていないことはすぐわかりますから、お客様は不安を持たれます。でも、笑顔で『割れ物です!』と大きな声を出していれば安心感を与えられるんです」

スタッフ同士の声かけは、お客様に安心感を与え満足度を高めるための技術でもあるという。そこまでお客様に配慮しながら作業をしていたことには、思いが至らなかった。プロの世界は奥が深い。

※すべて雑誌掲載当時

(的野弘路=撮影)