【辻田】シラスでは、わけの分からない誹謗中傷がまず来ません。ちゃんと内容を理解した人たちのポジティブなフィードバックが多い。ラジオやテレビと比べてユーザー数は少ないけれど、コテハンのおかげで“顔が見える”という感覚があっていいんですよね。

【東】フィードバックって、数が多ければいいわけじゃないんですよね。質の低いコメントがあまりに多いと、配信者のほうが意識をブロックしちゃう。単なる「群れ」にしか見えなくなるんですよ。シラスのように、数十人、数百人の規模で、ハンドル名を知っている人たちがコメントしてくれるのが、人間の脳にとって一番いいフィードバックの形だと思いますね。

【辻田】いつも観てくれる人から「次はこれやってください」とリクエストされたら、「じゃあ、こうしてみよう」とチャレンジしたくなる。そういう情報発信の場は貴重です。

辻田真佐憲さん
撮影=西田香織

匿名で親密さがある、オープンな言論空間が育った

【東】シラスをつくろうと考えたとき、「ニコ生+ツイッター」のイメージがありました。でも、じっさいに運営して気づいたことがあるんです。それは「はてなダイアリー」の記憶が反映されているんじゃないか、ということ。

「はてな」は2000年代前半に大きな力をもったブログサービスで、ブログではなく「日記」という特有のコンセプトをもっていました。ユーザーには学者や出版関係者が多くいて、人文系の強いコミュニティができました。いまでも「はてな村」という言葉に残っていますね。匿名といいつつ、けっこう正体がばれている人も多くて、オープンだけれど親密さもある不思議なコミュニティでした。

ぼくも当時はよく利用していて、あのコミュニティの感覚が強い思い出として残っている。自覚はなかったけれど、どうもシラスの設計や運営に、「はてな」みたいなコミュニティがつくれたらいいな、という思いが入り込んでいたらしいんです。それは最近気づいたことです。

だから、この1年で何がよかったかと言えば、とにかくあたたかいコミュニティが育ったことですね。これはかけがえのない財産だと思います。今後シラスが成長するにしても、この部分をなんとか守っていきたいですね。

【辻田】ニコ生やYouTubeでもコメントはつけられるけど、まるで違いますね。

【東】ニコ生はコメントに発言者の名前がない。ざーっと画面上をながれるだけ。そこに独特の魅力があるんだけど、配信している側からすると、全体が「ニコ生ユーザー」という一個の“集団精神”にも見えますね。