なぜ日本ではキャッシュレス決済が広がらないのか。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんは「日本のキャッシュレス決済は手数料が高い。小売業の営業利益率を考えれば、広がらないのは当然だろう」という――。

※本稿は、野口悠紀雄『CBDC 中央銀行デジタル通貨の衝撃』(新潮社)の一部を再編集したものです。

カフェでモバイル決済
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韓国は94.7%なのに、日本は約30%

日本のキャッシュレス決済比率が低いことは、よく知られている。経済産業省の商務・サービスグループキャッシュレス推進室の資料(2021年8月)によると、キャッシュレス決済比率は、韓国では94.7%にもなっている。それに対して、日本は約30%にとどまっている。

キャッシュレス推進室は、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度に引上げ、将来は世界最高水準の80%を目指すとしている。

日本経済の生産性を高めるために、キャッシュレス化は是非必要なことだ。また、新型コロナウイルスの時代には、人と人との接触を減らす観点からも、キャッシュレス化が望まれる。

コロナ禍でもスマホ決済は増えなかった

キャッシュレス促進のため、政府は2019年10月から20年6月中まで、消費税増税にあわせたポイント還元策を実施した。決済業者が手数料を3.25%以下に抑えれば手数料の3分の1を補助し、さらに2~5%のポイント還元分を国が補助する制度だ。

では、この政策の効果はどうだったか? むしろ、新型コロナの感染拡大による影響のほうが大きかった。

『日本経済新聞』の調査によると、2020年2月10日~3月8日と、5月4日~17日のデータを比べると、最も利用が多かった決済手段はクレジットカードで、全体の36.2%を占めた。この期間に1.9ポイント増えた。現金は、2.8ポイント減の31.7%だった。

それに対して、「ペイペイ」や「LINEペイ」などQRコードを用いるスマートフォン決済のシェアは、0.1ポイント減の7.4%に留まった。

対面決済が減っているため、伸びなかったのだ。「Suica」など電子マネーの利用額のシェアは、0.8ポイント増の18.4%となった。タッチするだけで支払えるため、QRコードの決済などと比べると堅調だった。