小売業の営業利益率よりはるかに高い手数料

電子マネーについて日本の場合の基本的な問題は、手数料が高いことだ。

経産省が平成29年に公表した調査でも、店舗がキャッシュレスを導入しない理由としては、「手数料の高さ」が最多だった。

とくに高いのがクレジットカードだ。各社はそもそも加盟店手数料を開示していなかったが、実態は最大7%程度の場合もあった。

法人企業統計調査によると、売上高・営業利益率(売上高に対する営業利益の比率)は、全産業で4.26%だ(2020年1~3月期)。小売業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業ではさらに低く、2.5%程度でしかない。カード決済の手数料が7%では、大幅な赤字になってしまう。

カードの手数料が欧米に比べて高いワケ

カードの手数料は、なぜこのように高いのか?

欧米では銀行がクレジットカードを発行しているのに対し、日本では、カード会社が銀行に振り込み手数料などを払いながら事業を手がけているのが一般的だからだ、と言われる。

また、日本では利用額の一定割合を利用者に還元し、その原資を手数料で賄うため、手数料が高くなっているのだとも言われる。

さらに、ネットワーク回線の通信料がある。

消費者の決済情報を専用回線でやりとりするが、回線使用料は金額ではなく、回数によって決まる。ところが、還元期間中は1000円未満の「小口多頻度決済」が過半数を占めたため、決済回数が多くなり、回線使用料が増えたのだとされる。

ペイペイなどスマートフォンを使ったQRコード決済の場合は、ポイント還元期間中は、手数料を条件付きで無料に抑えた。中国でアリペイなどの電子マネーの利用が進んだのは、手数料がゼロだからだ。また、仮想通貨の場合も手数料はゼロに近くなる。日本でキャッシュレスが進まないのは、電子マネーの手数料が高すぎるからだ。

複数の電子マネーを統合する仕組みはある

日本でキャッシュレスが進展しないもう1つの理由として、さまざまな電子マネーが乱立していて使いにくいことがある。

ところで、複数の電子マネーを統合する仕組みは、すでに存在する。それは、「UPI(統合決済インターフェース)」という仕組みだ。日本でもすでに利用可能になっているグーグルペイは、UPIを用いているアプリである。

グーグルペイは、楽天EdyやSuicaなどと同列の電子マネーの1つではなく、これらの電子マネーを使いやすくするための仕組みである。

日本でグーグルペイのアプリをダウンロードすると、楽天Edy、nanaco、WAON、Suica、QUICペイなどが使えるのだ。

多くの電子マネーは、その電子マネーの口座に入金した残高がないと使えない。しかしグーグルペイの仕組みを使えば、クレジットカードから簡単に入金できる。どのクレジットカードを使えるかは電子マネーによって違うが、楽天Edy、Suicaなら、日本で発行されているほとんどのカードが使える。

しかも、支払いには、スマートフォンをかざすだけでよい。共通のQRコードができたのと同じ効果が得られる。

UPIは、グーグルが開発したものではなく、インド決済公社が開発した仕組みだ。

インド政府は高額紙幣を廃止する一方で、UPIのシステムを開発したのである。2016年4月にサービスが始まった。

その特徴は、異なる銀行口座からの利用を可能にしている点だ。そのため、UPIの仕組みを使うと、スマートフォンだけで複数の電子マネーを使うことができるのだ。

現在インドには、45もの電子マネーが存在するが、これらがばらばらにならず、連携して使うことができる。協議会を作ったり、統一QRコードを作るのもよいが、UPIの活用も、もっと考えられるべき課題ではないだろうか?