三菱UFJグループが「仮想通貨」から「電子マネー」へ方向転換した

新しい決済手段に関するMUFG(三菱UFJフィナンシャル・グループ)の取り組みが最初に報道されたのは、2016年だった。

それ以降の動きを、改めて説明しよう。同年2月1日の『朝日新聞』が、MUFGが独自の仮想通貨「MUFGコインを開発中」と1面トップで報道した。

これは、ブロックチェーン技術を用いる通貨で、2017年に発行予定とされていた。

銀行自らが取引所を開設し、同行に口座を持たない人も利用できる。送金や買い物の支払いにも使え、手数料はゼロに近い水準まで下げられるというので、マネーの世界に革命的な変化をもたらすものとして実用化が待たれていた。

MUFG社内での実証実験が2018年から進められ、2019年度中に発行の予定とされていた。ところが、2019年末に方向転換があったようだ。

MUFGは、2019年12月にリクルートホールディングスと共同で新会社の設立契約を締結した。『日本経済新聞』の報道によると、MUFGはデジタル通貨「coin」(通称MUFGコイン)を当初は2017年度にも実用化する計画だったが、利用者の本人確認の徹底など銀行法が求める要件と利便性を両立できないという問題があった。

このため、単独での展開は難しいとみて戦略を転換したのだという。この記事は、「将来はブロックチェーン(分散型台帳)を使って大量の決済情報を高速でやりとりする仕組みにする計画」としている。逆に言えば、「coin」はブロックチェーンを用いないもの、つまり数多くあるQRコード決済の電子マネーと同じものだということになる。

これは、大変大きな方向転換だ。銀行法との折り合いが難しいというのはそのとおりだろう。

しかし、それだけでは、利用先をリクルートに限定する理由は、依然として分からない。

みずほの「Jコインペイ」も手数料が高い

そこで、他のメガバンクによるデジタル通貨発行計画を見よう。みずほの「Jコイン」も伸び悩みみずほフィナンシャルグループは「Jコイン」という名称のデジタル通貨を提供する方針を明らかにしていた。

しかし、2019年3月に始まったのは、QRコードを使ったスマートフォン決済サービスである「Jコインペイ」だった。

みずほフィナンシャルグループ(FG)が発表したQRコードを活用するスマホ決済サービス「Jコインペイ」=2019年2月20日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
みずほフィナンシャルグループ(FG)が発表したQRコードを活用するスマホ決済サービス「Jコインペイ」=2019年2月20日、東京都千代田区

参画する地方銀行などが、実際の運用を行う。銀行口座からアプリにチャージする場合や、アプリ内のJコインペイの残高を銀行口座に戻して現金化する場合には、手数料は無料だ。Jコインペイに参画している銀行であれば、異なる銀行間でも手数料無料で送金できる。この点では、他のQRコード決済の電子マネーより有利なので、利用者が増えるだろうとの期待があった。

しかし、実際には、顕著には増えなかった。なぜか?

それは、手数料が高いからだと思われる。ここで「手数料」というのは、消費者が利用する場合の手数料(銀行口座との間の出し入れや送金手数料)ではなく、店舗が電子マネー提供事業者に支払う手数料のことである。加盟店手数料は非開示だ。

Jコインペイの公式サイトには、つぎのように記されている。

「導入費用は0円。加盟店料率(決済手数料)は各取扱金融機関により異なる」

加盟店手数料については、高知市が2019年7月に開催した「キャッシュレス対応フェア」の際に公表した資料がウエブにある。

それによると、Jコインペイの加盟店手数料は、売り上げの1.5~3.0%となっている。これはかなり高い手数料だ。

Jコインペイは「3~5%程度とされるクレジットカードより低くする」と約束しており、それは実現されているのだが、それでも高い。

2019年10月1日~2020年6月30日までの期間には、他の電子マネーが手数料を2.16%または2.17%としていた。これは国の補助があったからだ。この影響もあってJコインペイは伸び悩んだのだろう。

184加盟店は、Jコインペイに参加する金融機関が自らの営業エリアの取引先を中心に開拓する。みずほというメガバンクが自ら加盟店舗獲得をするのは難しいからだろう。