ものごとを一人で決めるな
心理学者コックとフレンチは、職場内での変化に対する抵抗を克服する方法として、意思を決定したり目標を設定する場にメンバーを参加させることを提唱した。
人は、言われたことを言われたとおりにやるよりも、取り組んでいる仕事に自分の意見や考えが反映され、自分の裁量によって仕事をすすめるほうが意欲が高まる。なぜなら、計画に自ら参加することで目標に対する理解が深まり受け入れやすくなる結果、仕事へのコミットメントが高まるからである。「これは私自身の目標なのだ」と思うからこそ積極的に達成するために努力するし、また、状況が変化しても臨機応変に対応しようとするのである。
もしあなたが、管理職にはなったものの、なぜか部下がついてきてくれずに空回りしていると悩んでいるなら、ものごとを一人で決めずに部下に相談し、部下を仲間に引き入れ、部下と責任を分かち合えるように変わることが大切である。
それでは、目標へのコミットメントを高めるには、部下とどのようなコミュニケーションをとればいいのだろうか。心理学者ロックとレイサムは、次のような5つのポイントを挙げている。
(1)必要性と有用性 目標が公正で納得できるとみなされて初めて、部下は積極的に仕事に関わろうとする。そのために、目標の必要性や有用性について、よく伝える。
(2)支持を与える 上司に支持されていると感じると、部下は仕事に対する自信と上司に対する信頼感を強める。そうなれば、部下は明確な方向性をもって行動するようになる。
(3)参加させる ものごとを決めるときには部下を参加させ、考えさせる。
(4)訓練 どうすれば目標を達成できるかについて部下が具体案を考えられるように訓練し、学び、行動するようにサポートする。
(5)誘因 適切な誘因を用意できれば、さらにコミットメントは高まる。仕事への期待感を伝え、達成したことについては明快に承認する。さらに、金銭報酬、昇進、権限委譲、同僚間の競争なども。
このようなコミュニケーションをとる中で、部下が与えられた仕事の内容を把握し、それが部門の中でどんな位置づけにあるのか、またそれが組織全体の目標とどのようにつながっているのかを理解させる。仕事の内容が複雑になるにつれ、それまでの経験に頼るだけでなく、問題を解決する創造的なやり方が必要になる。そのためには、まずは現状を認識するところから始めなければならない。
仕事の中で自分に求められているものは何か、新しいやり方が必要とされているのか、自己裁量の範囲はどこまでか、ほかとの調整はどうするのか、負うべき責任は何か、どんな情報がいるのか、といった状況を正確に認識させるのである。