事務局を極めれば経営人材にもなれる

私が在籍する富士ゼロックス ナレッジ・ダイナミクス・イニシアティブは企業の組織変革のお手伝いをするコンサルティング組織です。クライアントである企業の経営者に今後の課題について尋ねると、異口同音にこう言います。「事業はもちろん、国や文化を超え、まったく違う価値観で生きている人間をまとめあげられる、人間力のある人材が圧倒的に不足しています」と。

そういう人間はプロデューサーやリーダーという特別な言葉で語られがちですが、本当にそうでしょうか。私にいわせれば、気が利く、他者に対する共感力がある、自分の成果より他人の成果を大切にする、といった要素が不可欠なだけで、スーパーマンである必要は全然ない。そういう人間なら、社内に結構な数がいて、あなたもそのタイプではないでしょうか。

そういう人にお勧めしたいのがまさに事務局の仕事です。準備係にして連絡係、雑用もこなさなければならない究極の「裏方」といっていいでしょう。でも見てきたように、業務上のプロジェクトにせよ、部署の引っ越しにせよ、人を動かし、自分も変われる絶大な力が事務局の仕事にはあるのです。先の経営者の言葉が真実なら、それは圧倒的に今の企業に不足しており、極めれば経営に不可欠な人材になることもできます。

本当はやりたい仕事があるのに任せてもらえないという人もいるでしょう。バリバリの企画マンとして働きたいのに、先輩の資料集めやアポ取りの仕事ばかり、という不満です。そういう場合、まずは忙しく働いている先輩にとって不可欠な人間になるべきです。大切なのは、「自分が今、企画マンだったら」という考えですべての仕事にあたることです。

先輩からコピー取りを命じられたとしましょう。図書館に行き、言われた資料をコピーするだけではいつまで経っても企画の仕事は任されないでしょう。そうではなくて、この資料から先輩がどんな企画をどうやって練り上げるのかを考え、役立ちそうな資料がほかにもあったら頼まれなくてもコピーして帰る。もっと言えば、資料を自分でも熟読して独自の企画をつくってしまう。タイミングを見計らい、それを先輩に口頭ででも説明してみましょう。ここまでやれれば、バッターボックスはすぐに回ってくるはずです。要は順番が回ってくるのを、指をくわえて待たないということです。

あなたが営業だったら、先輩の話を聞いて営業日報を代筆することをお勧めします。仕事ができる人はただでさえ忙しくて、アウトプットに割く時間がいつも不足しています。先輩には感謝されるし、できる人の仕事の話は聞けるし、まさに一石二鳥です。

秀吉が信長の下足番をしていたとき、冬の寒い朝、草履を懐に入れて温めていたという逸話を思い出してください。それがきっかけで信長に取り立てられ、秀吉の栄華が始まったわけです。事務局を含め、どんな仕事もその人次第、大切なのは仕事に向かうあなたの意識なのです。

(構成=荻野進介)