かつての人事部には絶大な権力があった。しかし現在の人事部にはもう出世コースをつくるだけの力はない。

たとえば都市銀行の場合、1990年代半ばまでは40~50代の行員をリストラの一環として融資先の会社に役員などとして送り込むことができた。だが、いまはそんなことはできない。金融業界を知り尽くすあるヘッドハンターは「銀行に譲歩する企業はなくなった。金融機関の権威は完全に失墜した。人材をねじ込むルートを失った人事部は、行内でも力も失い、仕切れなくなっている」という。

もはや人事部による見せかけの「安定」を得るルートでは安心できない。競争で負けた行員は自力で再就職先を見つけなければいけない。一方、優秀な行員は自らの力でポストや再就職先を切り拓く時代になっている。この傾向は、ほかの業界でもおおむね当てはまるだろう。

資格や語学、最終学歴も、当然、何ら決定打にならない。ある都市銀行の人事部員は「たとえアメリカの名門大学のMBAホルダーになっても、それだけで昇進が有利になることはありえない。預金量が多い名門店に配属されても、それで出世コースに乗ったと捉えるのは早計。語学力なども昇進の決め手にはならない」という。

新卒組は中途採用組よりは数年早く、支店の課長クラスにはなれる。しかし、そこから先は流動的であり「プロパーが有利」と一概には言えないという。もはや頼れるのは自分の力だけなのだ。

(宇佐見利明=撮影)