企業人事においては、等級制度(職能等級、職務等級など)に応じて処遇する考え方が一般的である。社員間の昇進をめぐる競争は、基本的には同じ等級の中で行われる。とくに20~30代半ばくらいまで、つまり、課長になる前はこの傾向が強い。

これには問題もある。大手メーカーの人事部員はいう。

「仕組み上は高い評価をとり続ければスピード出世は可能。だが現場では、『5年目の先輩を立てて、今回は我慢してくれ。来年は良い評価をつけるから』と入社年次に応じた評価がなされている」

これが人事業界でよく言われる「評価の順番待ち」である。

このとき「業績評価」と「行動評価」の2つある評価軸のうち、とくに後者が調整に使われる。場合によっては、「業績はいいが、協調性に欠ける」といった評価を下すことで、意図的に総合評価を下げることで年功序列が維持されるわけだ。

このあいまいで恣意的な評価は、「抜擢人事」すら可能にする。ある大手出版社の部長は、30代前半の女性を課長に抜擢した。「女性を大切にする会社にしたい」という経営陣の意向を汲み取ったものだった。同社の人事部員は、部長がそのとき使ったのも「行動評価」だったという。行動評価について、「彼女は業績は見劣りするが、協調性やリーダーシップに優れている」とすることで、総合評価を抜擢人事に見合うものとしたのだ。

会社員は、こうした評価に一喜一憂しているのである。

(宇佐見利明=撮影)