2015年12月、夫婦別姓訴訟が最高裁で棄却された
なぜ「選択的」なのに、夫婦別姓は進まないのか?
そんな選択的夫婦別姓問題にとって、そして僕自身にとっても大きな転機となる出来事が、2015年12月16日に起こります。
男女5人を原告とした「夫婦同氏を強制する民法750条は憲法違反」との訴え(夫婦別姓訴訟)が、最高裁で棄却されたのです。
僕はこの裁判では原告ではありませんでしたが、夫婦別姓賛成派で、当事者。ですから、判決の日にはもちろん期待して見守っていました。一審、二審と棄却されてきたけれど、司法のトップである最高裁ならまっとうな判決を下すはず。ようやく「強制的夫婦同姓」に違憲判決が出るぞ。社会が一歩前に進むぞ。心からそう信じていたのです。
しかも判決が出る直前には、夜のニュース番組の取材を2件受けました。「夫婦別姓賛成派で、自身も姓を変えたITベンチャーの社長」はメディア映えしたのでしょう。インタビューでは、「今の制度は、日本のジェンダーギャップを生み出している権化のような存在だ」と現法律の欠陥、そして今回の裁判の社会的意義について大いに吠えました。
ところが、判決は「合憲」。現行法で問題ないと判断され、僕のインタビューも敗訴のニュースとともにお茶の間に流れました。違憲判決とともに、「勝利の解説」として流れる予定だったのに……切ない。
一部の議員が選択的夫婦別姓に猛烈に反対している
いよいよ僕の疑問は膨らみます。
「みんなが夫婦別姓にしようぜ、という話じゃない。選択したい人がそうできるようにしようと言っているだけだ。なぜ、日本ではこうも議論が進まないんだろう?」
そこから本業の傍ら、個人活動をスタート。自分なりにあらためて、選択的夫婦別姓について詳しく調べてみることにしました。なぜ制度や世論は変わらないのか。どうすれば社会は動くのか。現状、どのような活動をしている人がいて、どのような成果があるのか――。そんな疑問を解決するために、ロビイストや政治家などに、積極的に話を聞きに行ったのです。
たとえば自民党の野田聖子議員のもとへ赴き、ざっくばらんに夫婦別姓について伺ったときのこと。
彼女はかつて、自身の家名を継承するために事実婚を選択していたこともある人です。選択的夫婦別姓に関しては「民法の一部改正に関する法律案」を提出したこともある、筋金入りの「別姓賛成派」。そんな彼女は、こう教えてくれました。
「政治家の中でも、一部の議員が猛烈に反対しているんですよ」
どうやら、「家族の絆」や「伝統」といった言葉を大切にする人たちが政治の中心に陣取っていて、夫婦別姓の家族が増えることによって、なし崩し的に戸籍制度まで破壊されてしまうことを恐れている。たとえ選択的であれ絶対に許さん、とガードしているというのです。
「ただ、彼らは影響力が大きいので、『賛成したら選挙で応援しない』と言われれば黙るしかない。心の中では別姓に賛成している議員も、表立っては推進できないんです」