サイボウズ社長の青野慶久さんは、衆院選に向けて選択的夫婦別姓に反対する候補者リストを公開して“ふるい落とす”ことを目指す「ヤシノミ作戦」を展開しています。では、国会で決まったとしてどうしたらスムーズに制度の導入ができるのでしょうか。青野さんは「今の戸籍制度や手続きを大幅に変えなくても、選択的夫婦別姓制度の導入はできる」といいます――。
婚姻届
写真=iStock.com/sharaku1216
※写真はイメージです

大きなコストはかからない

9月29日に行われた自民党総裁選に続き、10月31日に投開票が予定されている衆院選でも、選択的夫婦別姓制度について議論が白熱しそうです。3日に就任した岸田文雄首相は法制化に慎重な姿勢を取っていますが、かつては党内の「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」の呼びかけ人を務めていました。個人として賛成しているものの、党内で賛否が分かれているため、建前上言えない背景があるということではないでしょうか。

選択的夫婦別姓制度については、国会で20年以上も議論されていますが、なかなか実現に向けた歩みが進んでいません。賛成派、反対派の論点がかみ合わないことは大きな理由の一つですが、「現行の制度を変えるとなると、行政の仕組みを大幅に変える必要があるのではないか」「手続きが煩雑になるのではないか」「戸籍制度を大幅に変更するために、大きなコストがかかるのではないか」といった懸念もあるのではないかと思います。

でも実は、導入するために社会システムを大きく変更する必要はありません。

ただ、うまくやらないと、確かに無駄にコストがかかったり、“コレジャナイ感”満載の制度になったりする可能性はありそうです。そこで、現時点で私がベストだと考える実現方法をまとめてみました。

ポイントは、選択的夫婦別姓制度を導入することによる変更コストを低く抑え、「本名を変えずに結婚する」という基本ニーズを満たすこと。そして、将来の社会の変化に合わせ、ルールがさらに変わる可能性も考えて、拡張性のあるやり方であることも、考慮に入れています。

本名を定める「戸籍制度」

本題に入る前に、まずは、選択的夫婦別姓制度によって大きな影響を受ける、「戸籍制度」について簡単にご説明しましょう。

戸籍制度は、一組の夫婦とその子どもをひとつの「戸籍」という単位で登録する情報システムで、日本人の場合、戸籍に登録された名前が「本名」になります。例えば、赤ちゃんが生まれて親が出生届を出す時、出生届にかかれた「名」が戸籍に登録されます。それが両親の「氏」と結び付けられてその子の本名となります。

子どもが成長して結婚する時は、夫婦で「婚姻届」を書いて自治体に提出します。この時、子どもは両親の戸籍から外れて夫婦2人で新たな戸籍を作り、登録されます。

婚姻届の用紙には「婚姻後の夫婦の氏」を記入する欄があり、「夫の氏」か「妻の氏」を選びます。選ばれた方が改姓せずに戸籍筆頭者となり、選ばれなかった方が必ず改姓することになります。