フェイクニュースの予算とノルマ

フェイクニュースが注目を浴びたのは、ロシア政府による介入が指摘された2016年の米大統領選だ。この時にフェイクニュース拡散を担ったと言われるのが「インターネット・リサーチ・エージェンシー」というロシア・サンクトペテルブルクの企業だ。メディアでは「トロール(荒らし)工場」などと呼ばれる。

同社の実態について、ニューヨーク・タイムズ・マガジンが2015年6月、ライターのエイドリアン・チェン氏によるルポで報じている。それによると、同社の従業員は約400人、月間予算は2000万ルーブル(約3200万円)。午前9時から午後9時までの12時間勤務が2日、休みが2日というシフトだという。

投稿先のプラットフォームは、ロシアのソーシャルメディア「フコンタクテ」、フェイスブック、ツイッター、インスタグラム、ブログサービスの「ライブジャーナル」、そしてロシアのニュースサイトのコメント欄。

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写真=iStock.com/DKart
※写真はイメージです

従業員1人あたりの2日間の勤務におけるノルマは、政治関連の投稿が5本、それ以外が10本、同僚の投稿へのコメント書き込みが150~200件とされていた。ロシア語に加えて、英語のチームもあり、CNNやFOXニュースなどの米国メディアがフェイスブックに投稿した記事に、米国人ユーザーを装って、バラク・オバマ米大統領(当時)への批判コメントを書き込んだりしていたという。

同社の実質的なオーナーは、ロシアの実業家、エフゲニー・プリゴジン氏とされる。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との関係の近さで知られ、「プーチンの料理人」の異名を持つ。同社の幹部とプリゴジン氏は、ロシアによる米大統領選介入疑惑の捜査に当たった米特別検察官、ロバート・マラー氏によって米国で起訴されている。

プロパガンダなどの情報工作の「ビジネス化」拡大の動きは、米大統領選へのロシアによる介入のスタイルが、世界的な広がりを見せているともいえる。

1日で数十万円の収入を手にしたケースも

一方で、2016年の米大統領選を巡るフェイクニュースの氾濫では、東欧・マケドニアの若者たちが、広告収入目当てに100を超すフェイクニュースサイトを次々と立ち上げ、米国のユーザー向けに配信していたことが、米バズフィード・ニュースなどの報道で明らかになっている。この中には、1日で数千ドル(数十万円)の収入を手にしたケースもあったようだ。フェイクニュースサイトの大半が、当時の共和党候補、ドナルド・トランプ氏を支持する内容だったという。

また、セキュリティー会社「トレンドマイクロ」は2017年6月の報告書「フェイクニュースマシン」の中で、ネット上で提供されている情報工作の工程ごとのサービス提供価格をまとめている。その中で、選挙や住民投票といった意思決定を歪めるための1年間の情報工作キャンペーンの費用を試算。フェイクニュースサイトの開設からコンテンツ調達と配信、ソーシャルメディアへの拡散にいたるまでで、予算額は合わせて40万ドル(約4500万円)程度になるとしている。

ソーシャルメディアを使った情報工作は、政治的な狙いとビジネス的な狙いが、車の両輪として駆動してきたことがわかる。