80カ国以上がSNSをプロパガンダに使用

「ビジネス」として、ソーシャルメディアなどを使ったフェイクニュースや誹謗中傷などの工作を請け負う――そのような動きが国際的に広がっている。

「拡大傾向にある潮流の一つが、コンピューターを使ったプロパガンダ工作に携わる、民間企業の数の増加だ。(中略)48カ国において、コンピューター・プロパガンダ工作をサービスとして提供する民間企業や戦略コミュニケーション企業と、政府機関が提携している証拠を得ることができた。このような提携は、非常に大きな利益につながる。2009年以来、このような民間企業との契約で6000万ドル(約68億円)が支払われたことがわかっている」

プロパガンダ工作としてのフェイクニュースの研究を続ける英オックスフォード大学インターネット研究所教授、フィリップ・ハワード氏らのチームは、今年1月に発表した報告書で、このような動向を「虚偽情報の産業化」と呼んでいる。

ノートパソコンでフェイクニュースを読んでいる人
写真=iStock.com/asiandelight
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報告書によると、ソーシャルメディアを政治的なプロバガンダの手段として、選挙や民主主義、人権などの侵害のために使用している国は、2020年には81カ国に拡大。前年の70カ国から10カ国以上増加している。主な国としてはロシア、イラン、中国などが挙げられている。

このうち、プロパガンダ工作にフェイクニュースを使っていた国は76カ国。さらに、政府機関が対抗勢力やアクティビスト、ジャーナリストへの嫌がらせや誹謗中傷を支援していた国は59カ国に上る。そして、政府機関からの民間企業への「情報工作の外注」は、前年の25カ国から48カ国へと、ほぼ倍増している。この報告書の中には、日本は含まれていない。

民間企業を「隠れみの」にし工作をする政府機関

このような傾向は、フェイスブック(現メタ)が5月にまとめた「影響工作(Influence Operations:IO)」に関する報告書でも指摘されている。同社では世論への介入工作「影響工作」の中でも、特にフェイスブックを舞台に、フェイクアカウント、フェイスブックページ、フェイスブックグループなどを連携させた組織的な工作を「組織的不正行為(Coordinated Inauthentic Behavior:CIB)」と位置付けている。

報告書によると、同社は2017年から2020年にかけて、50カ国以上で150件を超す「組織的不正行為」のネットワークを削除したという。

この中で、指摘しているのが「影響工作請負(IO-for-hire)」と呼ぶ民間企業の台頭だ。報告書は、こう述べる。

「当社は過去4年間で、メディア、マーケディング会社、PR会社といったビジネス分野のプレーヤーによる影響工作を調査し、削除してきた。ミャンマー、米国、フィリピン、ウクライナ、アラブ首長国連邦、エジプトなどの国がこれに含まれる。(中略)これらビジネスとしての“影響工作請負”の企業は、工作キャンペーンを行う巧妙なプレーヤーが隠れみのとして使っており、その特定をより困難なものにしている」

なぜ情報工作を民間企業に外注するのか。「隠れみのになるからだ」と同社は指摘している。