阿部商店が直面する一番の課題とは
――シンプルな家庭料理のようにも見えますが、奥が深いですね。
【今井】「いかめし」の味は職人の腕にかかっているので、その職人が高齢化しているのが懸念事項ですね。20人くらいの北海道の女性が働いていますが、出張が多くてなかなか自宅に帰れないので、若い人はあまり続きません。50歳以上の人が中心で、後継者の育成が急務になっています。そこが一番の課題です。
――社長に就任されたのはコロナ禍の2020年5月1日。大変な中でしたね。
【今井】会社としては、社長に就任したのと同じタイミングで、水産加工の三印三浦水産と業務提携を結びました。力強い協力を得て、特にイカの安定供給を担保していただきました。
なぜ外国産のイカを弁当に使用するのか
――イカが獲れなくなってきているのですか。
【今井】「いかめし」には長年ニュージーランド産のイカを使っていたのですが、2011年に起こった大地震の影響で、プランクトンの関係か、海流に変化が起こったのか、獲れなくなってきているのです。世界的にイカが不漁の傾向で、イカの仕入価格の高騰は頭の痛い問題です。「いかめし」の値段は1980年代は350円でしたが、今は780円まで上がりました。「いかめし」が売れる理由には、他の駅弁に比べて安いというのもあります。これ以上の値上げは避けたいです。
――なぜ、ニュージーランド産のイカだったのでしょう。
【今井】地元のイカが不漁で使えなくなってしまいましたが、ニュージーランド産を使ったら、イカを煮て冷めてからも身がやわらかい、よりいっそうおいしい「いかめし」が出せるようになりました。ちなみに当時のニュージーランド産のイカは決して安くなく、むしろ高かったとか。輸入品じゃないかと後ろ指をさされても、高くても、それにもかかわらずニュージーランド産を使っていたのは、おいしい「いかめし」のためだったのです。