「つくり手が『いい!』と思う商品、これは大抵売れませんよ」
米長邦雄氏は将棋にたとえて説明する。
「『将棋盤の向こうにいるファンを喜ばすためにはどうすべきか』。ビジネスで必要なのはこの洞察力です。『自分が満足できるもの』は、大抵単なる自己満足にすぎません。ものを売るためには、ロマンではなく現実。より多くお金が支払われる商品が、『いい商品』と呼べるのです」
そうは言っても、なかなかシビアに現実を見られないのが凡人の悩みどころ。自分が「いい!」と思うものは、「売れてほしい」し「売れるはず」と思いたい。その結果、「売れなかったけどいい商品だったよな」的な在庫が山と積まれていく。「勝てなかったけど俺たちはいい勝負をした」。そんな負けの美学に酔いしれるのは、圧倒的に男性だと植木理恵氏は指摘する。「子どもの頃から、男の子はプラモデルやレゴなどを組み立てる遊びが大好き。最終的に変な形に仕上がっても、『うん、僕は頑張った』というところに満足する。男は基本的に『プロセス主義』なんです。
ところが女の子は、リカちゃん人形のように最初から完璧に仕上げられた完成品を手に入れたがる。彼女たちは、制作過程の熱いロマンなどに一切価値を置きません。シビアな『成果主義』ですから」
しかしこれからの時代、財布の紐をゆるめるのは主に30代、40代の独身女性だとも植木氏は言う。「女性はもともと、宝飾品や化粧品など『なくてもいいもの』にお金をつぎ込む生きもの。『売れないけれどいい商品』は、いままで以上に価値が下落していくでしょう」。
しかし、「売れるか売れないか」の判断は、一体どこでできるのだろう。