歯科治療の頻度が下がると新型コロナの感染リスクは高まる

全国的に新型コロナの感染が蔓延し、病院への受診控えが起きたことが問題になっています。がんの発見が遅れ、高血圧や糖尿病、心臓病などの持病を悪化させる人がふえているからです。

歯科でも同じように定期メンテナンスを控える人が多くなり、虫歯や歯周病を悪化させてしまうケースが出てきています。しかし、じつはこれが却って新型コロナの感染リスクを高めてしまうことにつながっているのをご存じでしょうか。

とくに高齢者は、感染リスクを二重三重に上げてしまうことになりかねないため、注意が必要です。さらにそれに加えて、糖尿病や高血圧、心臓病などの持病がある人は、新型コロナの感染を恐れて病院への定期通院を控えることで、それらの持病を悪化させると、新型コロナに感染してしまったときに、その持病のコントロールができていないことが、より重症化するリスクを高める結果につながります。

新型コロナで重症化しやすい基礎疾患といわれているさまざまな病気は、歯周病が関係する全身の病気でもあるからです。おさらいになりますが、歯周病の人は口のなかに常に炎症が起きています。

進行している人はとくに歯ぐきの血管から歯周病菌も炎症性サイトカインも血液にのって全身へ運ばれ、さまざまな臓器に拡散しています。新型コロナで最も起きやすいのはコロナ肺炎ですね。

歯周病菌や炎症性サイトカインが血液にのって全身へ運ばれるイメージ
写真=iStock.com/wildpixel
※写真はイメージです

肺にも当然、この炎症性サイトカインがたくさん運ばれているため、歯周病がない人よりも肺炎の炎症がひどくなります。ボヤにガソリンを注がれて燃え広がるようなサイトカインストームと呼ばれる重症化が容易に起きてしまうということです。

歯周病がある人は新型コロナで死亡する確率が8.81倍も上がる

糖尿病や高血圧、心臓病など基礎疾患と呼ばれている病気が起きている臓器にも、炎症性サイトカインがたくさん届いています。しかも、新型コロナの感染を恐れて、受診控えをしたことでその持病が悪くなってしまっていたら、より炎症が進んでいるということです。

小さな火事にガソリンが注がれて一段と燃えさかってしまうということなのです。

次のデータは『ジャーナル・オブ・クリニカル・ペリオドントロジー』という権威ある一流ジャーナルに掲載された論文で報告されたことをまとめたものです。歯周病がある人とない人とで、新型コロナの重症化の割合を調べたところ、

歯周病がある人258人のうち、重症化したのは33人(12.8%)
歯周病がない人310人のうち、重症化したのは7人(2.3%)

と明確な差が出ました。歯周病があると重症化しやすいことは間違いないという結果です。また同じように、歯周病がある人とない人で、感染後のリスクを調べたところ、すべてにおいて歯周病がある人のほうがハイリスクであることが明らかになりました。

死亡する可能性 8.81倍
人工呼吸器を使用する可能性 4.57倍
集中治療室に入院する可能性 3.54倍
合併症発症の可能性 3.67倍

歯周病がない人に比べて、新型コロナに感染した後、重症化するリスク、合併症が起こるリスクもこれほど高くなることがわかったのです。当然、クラスターの発生につながる可能性も高くなります。

ですから、コロナ禍であっても歯科への受診は控えるのではなく、むしろ奨励するほうが感染を予防し、重症化のリスクを下げられると考えられています。