ヒノキなど日本の材木を使った新規事業を次々と立ち上げている大阪の中小企業がある。木材製品の開発、販売を手掛ける丸紅木材(清水文孝社長)だ。かつては材木の輸入業者だったが、国内の森林再生に生き残りの活路を見出し、10年足らずで会社のカタチを大きく変えた。ジャーナリストの安井孝之さんが取材した――。
森林再生に活路を見出した“小さな木材商社”の大変革
丸紅木材は8月末、天然ヒノキからつくった芳香スプレーに新型コロナウイルスを不活化する抗菌作用があることを発表した。
ひのきの香り成分が新型コロナウイルスの働きを抑えるというのだ。丸紅木材が2019年から販売している「エッセンシャルひのきミスト」を奈良県立医科大学が調べたところ、新型コロナウイルスに対する抗菌作用が確認された。社員28人の中小企業である丸紅木材が開発した商品に新たな価値が加わった。
1954年に設立された丸紅木材は元をたどると海外から木材を輸入する木材商社だった。大手商社の丸紅とは縁もゆかりない。戦後の経済成長の波に乗り、海外の木材を日本に輸入し、その利ザヤで稼いできた。
だが丸紅木材の姿は今や大きく変わっている。国産ヒノキなどを使った家具や玩具、キーホルダーなどノベルティ製品、そしてひのきの「ミスト」と国産材をフル活用する事業構造に転換しつつあるのだ。
会社がつぶれる……救世主となった中国のポプラ
清水文孝社長が丸紅木材に入ったのは1996年、17歳の時だった。中学を卒業して建設業で働いていたが、祖父が創業した同社に入社した。それ以来、熊本県にあった九州支店での現場仕事や営業を従事し、2006年に5代目社長となった。27歳の若さだった。
当時、輸入材に特化していた丸紅木材は7期連続の赤字決算を記録し、経営苦境に陥っていた。熱帯地域の森林は伐採が続き、森林面積は減少し、南洋材の確保は難しくなるばかり。日本の高度経済成長以降の輸入材の増加は、国内の旺盛な住宅需要と森林という資源を手っ取り早く外貨に換えたいという東南アジア諸国の思惑に支えられたものだった。しかし、地球環境保護を求める声の高まりで、輸入材のビジネス環境は厳しさを増していった。