<現在のエネルギー需給の逼迫を招いた原因は、再生エネルギーへの過剰投資とエネルギー地政学の軽視にあり:ブレンダ・シェーファー>
ガソリン供給が滞り、在庫切れで営業を止めたイギリスのガソリンスタンド(2021年9月27日)
写真=iStock.com/Fela Sanu
ガソリン供給が滞り、在庫切れで営業を止めたイギリスのガソリンスタンド(2021年9月27日)

エネルギー危機が世界中に広がっている。燃料価格の高騰や供給の不足に加え、停電も頻発している。アメリカでも一部の州は電力の安定供給に四苦八苦している。

こんな危機は数十年ぶりだから、誰もが不意を突かれた。エネルギーの供給が不安定になれば経済だけでなく安全保障にも環境にも、さらには公衆衛生にも甚大な影響が及ぶことを、みんな忘れていた。

エネルギーはどんな商品にも使われており、全ての商品価格に影響を及ぼす。エネルギーなくして製造業は成り立たず、その価格と供給の安定は一国の経済的競争力を維持する上で死活的に重要だ。また電気代と燃料費は国民生活に必須な支出項目であり、その急激な上昇は貧困層を直撃する。電力供給に不安があれば、政府機関やインフラも維持できない。エネルギー安保の重要性は明らかで、いわゆる国家安全保障と同等に扱われねばならない。

ヨーロッパを見るがいい。ガスや石炭、電気の価格が高騰し、スペインでは家庭用電気料金の値上げに抗議するデモが起きた。イギリスでは給油待ちのトラックが長蛇の列を成している。まるで1970年代のような光景だ。このまま天然ガスをはじめとするエネルギーの不足が続けば、ヨーロッパは暖房のない冬を覚悟しなければならない。

こうした惨状に、世界各国は学ぶべきだ。ヨーロッパはエネルギー市場の再編に知恵を絞り、多額の資金を投じてきたが、見るも無惨な状況に陥った。何が間違っていたのか。他国にとっての教訓は何か。

現実の複雑さを無視した議論

ヨーロッパのエネルギー問題をめぐる議論は、もっぱら再生可能エネルギー派と化石燃料派の対決という構図で行われてきた。これは文化戦争であり、後者は風力も太陽光も安定性を欠く(そもそもヨーロッパの大半の地域は日照が少ない)から、そんなものには依存できないと論ずる。逆に前者は、化石燃料は価格が変動しやすいし、ロシア産の天然ガスに依存することのリスクは大きいと指摘する。

だが現実はもっと複雑だ。エネルギー安全保障の実現には、市場原理と技術、政策、地政学のバランスを慎重に保つ必要がある。市場原理に委ねようとする右派の思想と、そうはさせまいとする左派の思想。そのせめぎ合いこそが今日のエネルギー危機につながった。

EUはエネルギー市場自由化の一環として、特定企業(ロシアのガスプロムなど)と固定価格で長期の供給契約を結ぶ方式をやめて、日々のスポット価格をベースにした契約に移行するよう促してきた。それは市場原理派の勝利を意味していたが、必ずしも安定供給と価格のバランスに関する綿密な分析を踏まえた上の判断ではなかった。