また、再生可能エネルギーに莫大な投資をしながら、ヨーロッパは電力供給の要となる送配電網への投資をおろそかにしてきた。電力の安定供給には蓄電システムやバックアップ電源の確保、送配電網の整備など複雑な体制づくりが必要で、とても民間だけでは対応できない。
電力会社に適切な蓄電とバックアップの体制を義務付けるのが無理なら、政府自身がその責任を果たすしかない。電気自動車のために補助金を大盤振る舞いして電力の使用を増やす一方で、そこで生じる需要増に見合うだけの電力供給体制を用意しないとすれば、大規模停電のお膳立てをしているようなものだ。
エネルギー地政学への関与をやめた欧州
最後に、ヨーロッパ各国はエネルギー地政学への関与をやめてしまった。EUはかつて、域内の天然ガスパイプライン網を構築し、カスピ海沿岸からの新しい天然ガス輸送プロジェクトなどを進め、エネルギー安全保障の強化に成功した。
こうしてヨーロッパにおけるガス供給の安全は高まり、多くの地域でロシアの独占は失われた。だが現在の欧州委員会はエネルギー政策を気候政策の一部としており、安全保障や手頃な価格のエネルギー供給にはほとんど注意を払っていない。
地中海東部などの比較的近い場所でも新しい天然ガス資源が発見されているのに、EUの指導者たちは環境活動家の圧力に屈し、新たに利用可能な資源の開発に真剣に取り組もうとしていない。
また福島第一原発の事故以来、ドイツを含む一部の諸国が原子力発電所の閉鎖や順次廃止に踏み切ったため、安全で安定したクリーンなエネルギー源が失われたことも、現下のエネルギー危機の要因の1つだ。
アメリカも同じ道を歩み、遠からずヨーロッパ的な危機を招くのだろうか? 状況は似ている。今年2月の寒波で起きたテキサス州の電力危機や8月のカリフォルニア州の計画停電は、今後起こりそうな事態の前触れかもしれない。
アメリカもエネルギー地政学に背を向けようとしている。バイデン政権はパンデミックでエネルギー需要が急減した後、国内の石油・ガス生産の再開を抑制している。石油・ガスへの民間投資も、化石燃料からの撤退を求める国際社会の圧力や世論の動向、そして投資家の意向によって抑えられている。
アメリカ政府はOPEC(石油輸出国機構)からの輸入を増やせばいいと考えているようだが、それでは化石燃料の生産地がアメリカから外国に移るだけで、環境問題の改善にはならない。またエネルギー安全保障上の新たな懸念も生じる。