高技術が必要な水素供給を担う2大事業者
水素の充填は、ガソリンと同じように、車体横の水素注入口に水素ディスペンサーのホースのノズルを接続しておこないます。注入するのは圧縮水素ですが、タンク内に注入して膨張させると温度が上昇するので、あらかじめマイナス40度にプレクールしてから充填します。
主な事業者は、ガソリンスタンドでおなじみのENEOS(エネオス)と、カセットコンロで有名な岩谷産業で、それぞれ50近い水素ステーションを運営しています。
ENEOSでは、石油精製所内の水素製造設備を利用して水素を製造し、高圧圧縮でオフサイトステーションに供給しています。また、既存のガソリンスタンドを併設する形で、増設を進めています。
岩谷産業は、戦前から工業用水素を扱うこの分野の草分けです。高圧圧縮がメインですが、液化水素の貯槽をもつステーションも扱っています。宇宙航空用も含めて、液化水素の国内シェアは100%です。
液化水素の場合、マイナス253度の超低温を維持し続けるのは難しく、外部からの侵入熱によって、わずかずつですが気化(ボイルオフ)が発生します。このボイルオフを、水素吸蔵合金によって回収して、圧縮水素として燃料電池車に充填する仕組みができています。
石油燃料由来から自然エネルギー由来へ
現状では、水電解による製造原価が高いため、商用の水素は、ほとんどが化石燃料由来ということになります。ただし、東京五輪・パラリンピック開催期間中に限って、関係車両(東京五輪・パラリンピックでは関係車両に燃料電池車を採用)が充填する都内の7つのステーションに、山梨県の「P2G(パワー・トゥ・ガス)システム」で、太陽光によって製造したグリーン水素を供給しました。
また、2021年8月にリニューアルオープンした、ENEOSの横浜旭水素ステーションでは、太陽光による電力と同社グループから調達する再エネ電力を使用して水電解で製造するグリーン水素を、オンサイトで提供しています。
水素ステーションでの水素の販売価格は、一部を除き1100円/kgです。これは前述したとおりガソリン車の燃料価格と“ほぼ同等”ですが、普及を目的にあえて設定した価格で、とても採算がとれる価格ではないと思います。
今後、燃料電池車がさらに普及し、日常的に充填する車が増えない限り、水素ステーションの運営は、開設のための初期投資も含めて、政府の補助金なしでは成り立たない厳しい状況だといえるでしょう。