余剰人員を雇えない中小企業は大手のように内定辞退者を見込んだ採用枠拡大はできない。学生の内定辞退はそのまま大きな痛手となる。西野社長は、中小企業はあえて採用時期を遅らせ、“営業”し、攻めるべきだと主張する。

採用を営業に置き換えるポイントは・学生のターゲティング・将来のビジョンを含めた学生の興味・関心を引くシナリオの作成・プロモーション活動・クロージング・フォロー(囲い込み)の4つだ。

この4ステップをリンク・アップで実践したのがビジャストのコンサルタントである黒水沙亜子さんだ。彼女は最初に役員から現場社員に至るまでの各階層にインタビューを実施した。

「31項目の質問をインタビューシートにまとめ『社風』『社員の特徴』『新卒に何を期待するか』『前職との違い』などをヒアリングしました。特に社長には経営者の視点から『起業に至るまでの思い』や『将来、目指す方向』など幅広く聞きました」

これにより今まで社員も意識しなかった「社員間の繋がりが強く、離職率がゼロである」「社員がそれぞれSEとして得意分野を持っている」など、学生に伝えるべき自社の魅力や「会社をもっと大きくしたい」という社長をはじめ社員の思いを引き出した。

そのうえで(1)「学生のターゲティング」つまり、リンク・アップが求める人物像を見定めるよう促した。

「システム開発の会社であるため、はじめはどうしても大卒以上、理系学生で、ある程度スキルのある学生がほしいとイメージしがちでした。それが本当に正しいのか、社内で働く人の事例を見て考えてもらうようにしました」

実際、リンク・アップには高専卒で活躍している優秀なマネジャーがいた。黒水さんはそういう社員の事例をもとに高学歴がよいといった固定観念や思い込みを払拭する作業をしたのだ。

最終的に「リンク・アップはまだまだこれからつくり上げていく会社である」という社員の総意を得て、07年度の採用ターゲットを文理問わず「発展途上の会社を自らの手でつくり上げていきたいという成長意欲のある学生」と位置づけた。

エントリー者のうち36%を説明会に導く

(2)「シナリオ作成」では、最初のインタビューをもとに会社の将来ビジョンをまとめ、それを実現するためのドラマを考える。そしてドラマの登場人物として、学生に入社後どのような役割を担ってほしいのかを明確にする。

「社内はビジョンに向かって今後どう変わるのか、それが学生にどんな影響を与え、学生自身が入社後どう変わっていけるのかを話し合いました」