オフィスで働く人々が一人一台のコンピュータを持って、その前で仕事をするという姿を30年前にわれわれは思い浮かべたであろうか。パソコンを管理職のみに配備するか、一般社員にも配備すべきかを社内議論したのはいつだったのだろうか。そんな昔ではない。

また、家庭の主婦がキッチンでタブレット型のコンピュータを手に夕食の献立を考えたり、食材の注文をしたりする時代が来ると、20年前にわれわれは予想しただろうか。

われわれの予測能力が劣っているのではない。20世紀はじめの人々が、30年ほど先にふつうの勤労者が自動車に乗って通勤する時代が来るとは予測しなかったのと同じである。誰もが予想しなかったような変化が一気に起こったのである。

2人が開発した商品は、一気に人々の生活様式を変えてしまったのである。この2人が生み出した変化を見ていると「将来は予測できないが、つくることはできる」という言葉の意味の深さを噛みしめることができる。

この2人からわれわれが学ぶべきことは2つある。一つは非連続なイノベーションの起こし方である。もう一つは垂直統合というビジネス・システムの功罪である。

非連続な変化を引き起こすのは、カリスマ的な個人であることが多い。大きな企業組織ではない。デトロイトの町には多数の従業員を抱える馬車メーカーが存在した。これらのメーカーが自動車産業に参入したのはフォードが成功してからである。シリコンバレーにはマイクロプロセッサーに関して進んだ技術を持つ大企業が存在した。しかし、パーソナルコンピュータという商品を生み出したのは新参のアップルであった。なぜ非連続なイノベーションに関して大きな組織は一人の偉大な企業家に勝てないのか。もちろん組織が得意なイノベーションもある。