社長が批判を浴びている間に、問題を解決する

トヨタなどのギャランティ型は開発に時間もコストもかかるが、万が一の問題が起きる確率は大きく下げられる。つまり、会社がマスコミの批判にさらされる回数が減ることになる。ただし、ギャランティ型では失敗を悪と見なすので、革新的なテクノロジーが誕生する可能性は低くなる。

かたやベストエフォート型は、開発がスピーディでコストも減らせる。しかも、失敗を容認するので、革命的なテクノロジーが生み出しやすくなる。とはいえ、万が一の問題が起きる確率は高くなり、その結果、会社が批判される頻度は格段に高くなる。

テスラのオートパイロットでの事故問題で、イーロン・マスクが晒されている状況がまさにそれだ。ベスト・エフォート型は、社長が批判に耐えて時間を稼いでいる間に、技術者たちが問題を解決できるかで命運は分かれる。解決できなければ、開発は止まってしまいブランドイメージを損なってしまう。

イーロン・マスクが革新的だったのは、ギャランティ型だった自動車業界に開発がスピーディでコストも減らせるベスト・エフォート型を持ち込んだことだと言える。

ベスト・エフォート型だからこそ、テスラはわずか12年間でEVの年間販売台数を5000倍にも増やすことができたのだ。ただしその間、手ひどい失敗も繰り返し、イーロンは批判の矢面に何度も立ち続けた。精神力が桁外れに強靭でなければ耐えられない手法でもある。

事故が起きれば中止し、謝罪するトヨタ

オートパイロットで死亡事故を起こしても開発中止をしなかったテスラに対して、ライバル企業はどうだっただろう。

トヨタが出資するライドシェア大手「ウーバー・テクノロジーズ」は、2018年にアリゾナ州での自動運転車の走行試験中に公道で死亡事故を起こした。すると、「公道での走行テストを中止する」と直ちに決定した。

トヨタは「事故を起こさないクルマ」をつくるという目標を掲げ、2016年にTRI(トヨタ・リサーチ・インスティチュート)を設立し、初代CEOにはMIT出身でコンピュータサイエンスの博士号を持つギル・プラットを就任させた。

ロードサイドにあるトヨタモーターズの看板(2011年10月、トルコ)
写真=iStock.com/dogayusufdokdok
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豊田章男社長も自動運転開発への本気度を示していたのだが、ウーバー・テクノロジーズの事故から4日後には、トヨタも自動運転を使用した公道での走行試験を中断すると発表した。

テスラ以外の自動車メーカーや大手IT企業は、石橋を叩く慎重な姿勢で臨んでいる。そのため、米規制当局がテスラへ注ぐ視線はより厳しいものになっていた。

グーグルの親会社アルファベット傘下の自動運転車開発企業ウェイモは、グーグル時代を含めると2009年には自動運転開発に乗り出していた。そして、他社がレベル1からステップアップして完全自動運転のレベル5を狙うのに対して、ウェイモは一気にレベル5に上り詰めようとしている。

そのウェイモのCEOジョン・クラフシック(当時)はイーロンの開発姿勢、とりわけ“言葉“を問題視した。

クラフシックは、イーロンが乱発するself-driving(自動運転)という言葉は「誤解を生んでいる」と批判した。ドライバーの監視が必要な運転支援技術なのに、それをテスラが「自動運転(self-driving)」と呼ぶのは間違っているというウェイモの指摘は、米規制当局などの発言にも重なる。