「人が運転するより、オートパイロットのほうが安全」と反論

だが、イーロンは「統計的に米国では1.5億kmの走行で1件の死傷事故が起きている。一方、オートパイロットを使ってテスラユーザーたちが走行した距離は合計約2億km以上で、今回のフロリダの事故が初の死亡事故だ。比較すれば、オートパイロットは人間よりも優れていると判断できる」と主張し、開発の継続を公言した。この発言を受けて世論もテスラ支持に傾いていった。

「自動運転」と聞くと完璧なものを期待してしまうが、イーロンは「自動運転は、ある種の確率の問題だ」と主張する。人々は自動運転に完璧を期待するのではなく、「人の運転より安全かどうかで考えなくてはいけないんだ」というイーロンの指摘は現実的だ。

以降、イーロンは事故が起きても「人が運転するより、テスラのオートパイロットのほうが安全だ」との主張をデータを示しながら繰り返してきた。

自動車の追突事故
写真=iStock.com/RobertCrum
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だが、テスラ車の販売台数が増えるとともに、自動運転での事故も増加している。なにより、テスラはオンラインでつながっているモデルSやモデル3といった実車を公道で走行させて膨大なデータを収集し、自動運転開発に生かしてきた。公道でテスラユーザーを実験台にするかの手法には根強い批判もある。

なぜテスラはユーザーを実験台にするようなやり方で開発を進めているのか。そこにはテスラが採用している「ベストエフォート型」と呼ばれる開発手法が関係している。

シリコンバレーでは常識の「ベストエフォート型」

まず、ベストエフォート型の対極にある「ギャランティ型」について説明しておこう。

テスラ以外のトヨタやGMなどの自動車開発は、「ギャランティ型」と呼ばれる手法を採用している。あらゆる状況を最大限想定し、性能テストや品質確認を何度も繰り返し、時間とコストをかけて不良品が出ないように万全を期すというものだ。そのために開発期間は極めて長かった。

一方、テスラのEV開発は「ベスト・エフォート型」である。

この開発手法がひと言でいえば「まずはやってみて、問題が起きれば修正する」というものだ。ベストエフォート型はシリコンバレーを中心としたソフトウエアの世界では常識となっている。例えば、プログラムのバグはあって当たり前。PCがフリーズしたら、電源を切ってもう一度立ち上げればいい。

テスラのモデルSの開発におけるアルファ版(開発初期の試作品)はたった15台だった。これで、寒冷地走行テストも衝突試験も済ませて、車内デザインの検討もやってしまう。一方で、トヨタやGMなどギャランティ型の自動車メーカーでは“万全を期す”ために、200台以上は必要だった。

とりあえずやってみる。でも、ダメだったら、原因を解明し、改善する。ベスト・エフォート型でテスラはこのサイクルを高速で回し、モデルSのアルファ版の台数の少なさを補っていた。