決定的な亀裂を避ける“切り札”

夫婦間でフラットな話し合いを申し出ることは、夫婦がともに持っている権利です。

家庭の維持に無理を感じたときには、自分が選んだパートナーを信じて、「夫婦会議をしたい」と申し入れ、自分が理想とする暮らし方、リズム、スタイルを伝え、その実現のために必要なリソースはなにか、どんな方法があるかをお互いに提案し合いたい、と伝えてください。

「今さらそんな話をしてもしょうがないよ」「たかが家事で、おおげさだ」などと、パートナーが夫婦会議に応じないことがあるかもしれません。とくに大きな不満もなく、家事が意識外にあるパートナーは話し合いを面倒に感じるし、提案する側も、自分がわがままを言っているような気持ちになることもあるかもしれません。

切り札は「パートナー解消も考慮に入れている」という言葉を静かに伝えること。ただ、これは“脅し”ではありません。あくまで「真摯しんしに話したい」という本気度を感じ取ってもらうために必要となるケースがある、ということです。

私は相談者に対し、「話に応じる気がないパートナーについては、実際に関係性を終わらせることも視野に入れたほうがよい」と、いつもお伝えしています。

夫婦会議は、あくまで家族が幸せになるための話し合いであり、お互いが理想とする暮らしや未来像のすり合わせです。そのための一歩を踏み出すことさえ拒否される場合は、“最後の切り札”を出すしかありません。

縁を切るイメージ
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危機を乗り越えたある夫婦のケース

30代のAさんご夫婦は、「夫婦会議をすることで、互いが抱えている思いに気づかされた」と言います。

フルタイムの正社員として働く妻は、家事や育児をワンオペでこなす日々に疲れ切っていました。でも、仕事が忙しく、いつも深夜に帰宅する会社員の夫を頼ることができずにいました。「自分ががんばらなくては」とギリギリの状態でいたそうです。

夫も、妻が疲弊し、イライラを募らせていることは感じていました。徐々に家庭の空気も悪くなり、「家事代行サービスを使ったらどうだろう」と考えるようになったそうです。しかし、実際に言い出すことができません。「妻の家事にダメ出しをするみたいで、言えなかったんです」と当時を振り返ります。

お互いのことを思いながら、気持ちを言葉にして伝えなかったためにすれ違う2人。この状態が続いていたら、いつか関係は破綻はたんしていたでしょう。

しかし、私がアドバイスしたことをきっかけに夫婦会議を持ち、お互いに初めて本当の気持ちを打ち明けました。妻は「夫にこれ以上無理をさせたくない」、夫は「妻のがんばりを否定したくない」。お互いを想い合いながら、うまくかみ合わなかっただけであったことを知りました。

互いの気持ちを確かめた2人は、やがて家事代行サービスを利用したり、両親の協力を得るなどして、妻の家事負担を減らすことを試みました。それから1年。今では、かつてのすれ違いが嘘のように、良い関係を取り戻して幸せに暮らしています。