普通の日本語では、リスクは「危険」「良くないことの起こる可能性」といった意味で使われますが、資産運用の世界では、リターンのブレの大きさを指すことが一般的です。

つまり、想定しているリターン(利回り)よりも儲かってしまうことも(損をすることと同様に)リスクと捉えるのです。

そして、富裕層はこのリスクを嫌います。大きく儲からなくてよいから資産が減らないこと(より正確には、想定リターンどおりに少しずつ増えていくこと)を第一に考えるのです。

株式相場がクラッシュしようが、金利がマイナスになろうが、資産全体(ポートフォリオ)の価値を保全する――。

これこそが富裕層の行動原理なのです。

ノーベル賞受賞の投資理論

富裕層が嫌うリスク(収益のブレ)を抑制し、ほどほどのリターンを安定的に上げるために絶大な効果をもたらすのが、MPT理論に基づく分散投資です。

欧米では古くから、「卵を1つのかごに盛るな」という格言があります。――複数の籠に資産を入れておけば、そのうち1つがダメになっても、他の籠の卵からやがて“ヒヨコ”が生まれ、にわとりに育つ――という意味ですが、米国プリンストン大学教授のハリー・マーコビッツ氏は、この古くから知られた分散投資のメリットをMPTという形で数学的に証明し、この功績でノーベル経済学賞を受賞しました。

富裕層は何に投資しているのか?

ここで、このMPT理論に基づく分散投資を行っている世界中の富裕層のポートフォリオの中身を覗いてみましょう。

世界有数のコンサルタント会社キャップジェミニがコロナ前の2020年1月~2月に、運用資産1億円1000万円以上の世界の富裕層約2500名に行った調査があります。

それによると、富裕層は、平均で、上場株式に30%、債券に17%、不動産に15%、そしてオルタナティブに13%の資金を振り向けていることが分かります。

オルタナティブ投資とは、「代替投資」という意味です。ヘッジファンドやプライベート・エクイティ(非上場・未公開株式)、金(ゴールド)などが含まれますが、ここにはビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)やワインや絵画、森林など、株式や債券とは異なる特性を持ち異なる値動きをする資産も含まれています。