もう一度ブームを起こしたい
このまま同じ会社でのんびり働いていこうかとも考えたそうだが、「毎日を全力で生きたい」と突っ走ってきた笹木さんにとって、その生き方は受け入れがたかった。もう一度PRの力で会社を動かし、やりがいを感じたい──。その思いに応えてくれたのが、地元の小さな鍋メーカー「愛知ドビー」だった。
同社の代表的な商品は「バーミキュラ」という鋳物ホーロー鍋。一時はメディアにもよく登場して大人気商品になったが、数年たつうちに少しずつ下火になり、広報担当者もいないことからメディア露出の機会も少なくなっていた。
これがPR魂に火をつけた。もう一度ブームを起こそう、バーミキュラを盛り上げようと決心し、久しぶりにワクワクしながら前職で培った広報スキルをすべて注ぎ込んだ。
バーミキュラを12カ月待ちの人気商品に
「当時、新商品が出る計画もなく、リニューアルをするわけでもないというPRにはとても不利な状況でした。だから、基本的な商品紹介から製造現場の裏話まで、さまざまな切り口を考えてメディアにアタックしていきました。結果が出ずあきらめかけたこともありましたが、やり続ければいつかは実を結ぶと思って、自分なりにモチベーションを保つ工夫をしていましたね」
その工夫とは、「1日3件メディアに電話する」という目標を達成できたら、たとえ結果につながらなくても自分を褒めること。こうして小さな目標を地道に達成し続けた結果、1年ほどたってついに「PRの魔法」が起こった。
全国放送のTV番組で商品が取り上げられ、爆発的に売れ始めたのだ。バーミキュラはあっという間に12カ月待ちの人気商品となり、会社はその後2年で年商が約4倍に。転職の際に抱いていた願いは、最高の形でかなえられたのだった。
だが、仕事と子育てにフル回転の日々が続いたせいか、ある時期から「息子との時間が少なすぎる」と感じるようになる。時間配分を自分でコントロールできるようになりたいと思い始めたのだ。
同時に、もっと多くの人の役に立ちたい、新たな挑戦をしたいという思いも強くなっていた。このとき、人生で初めて「起業」が頭に浮かんだという。