喫煙者の肺がんは発見が困難で薬も効かない
日本人の死亡原因第1位のがん。多くの人を死に至らしめているがんの、死亡数が多い部位は次のようになっています。
・男性 1位:肺 2位:胃 3位:大腸 4位:膵臓 5位:肝臓
・女性 1位:大腸 2位:肺 3位:膵臓 4位:胃 5位:乳房
ついでに罹患数が多い部位も紹介しておきましょう。
・男性 1位:前立腺 2位:胃 3位:大腸 4位:肺 5位:肝臓
・女性 1位:乳房 2位:大腸 3位:肺 4位:胃 5位:子宮
罹患数と死亡数は必ずしも一致しませんね。
女性の罹患数1位の乳房、5位の子宮ですが、死亡数では乳房は5位、子宮は5位以内に入っていません。乳房も子宮も検診で発見できるタイプのがんであれば、決して悲観する結果にはならないということです。
男性1位の前立腺は死亡数では5位以内から外れています。再三書いてきたように発見はしたけれども治療の必要がない、つまりほとんどが命に関わりのないがんであったのでしょう。
前項で触れた膵臓がんは罹患数では男女ともに5位以内に入っていませんが、男性は4位、女性は3位の死亡数です。見つけにくく、見つかったときには治療が難しいことが、数字にあらわれています。
さて、前置きが長くなりましたが、本項のテーマは「肺がん」。
肺がんの死亡数は男性で1位、女性で2位と高い位置につけています。罹患数も男性4位、女性3位なのできちんと発見されているように見えますが、無事に発見されて治療の成果が出やすいのは非喫煙者の肺がんです。
欧米では非喫煙者の肺がんは珍しいのですが、日本をはじめ中国や韓国など東アジアでは多く見られます。ただし、非喫煙者の肺がんは単純X線検査でも見つけることができる場合があるので速やかに治療をスタートできます。
また、イレッサという肺がんによく効く薬ができたのも安心材料として挙げられます。
しかし、喫煙者の肺がんはそうはいきません。
まず、見つけにくい。肺の構造が壊れてしまって、わけのわからない炎症のような影がよく出るのです。そのなかに突然「ポンッ」とがんがあらわれ、気づいたときには手の施しようがない状態です。
さらに、肺がんによく効くはずのイレッサが使えません。イレッサは非喫煙者に見られるEGFR遺伝子の異常がある場合に初めて効果が出ます。喫煙者の肺がん患者の多くはこの遺伝子異常がなく、薬の効果はありません。もし薬を使ってしまうと副作用で激しいアレルギー性肺炎を起こすことがあり、命の危険があります。
今は患者さんもインターネットで情報を仕入れる時代です。イレッサを知っている方も多く、診察室ではよくこんな会話をしました。
「先生、イレッサやりたいんですけど」
「よく勉強されてますね」
「肺がんに効くんでしょ」
「効くんですが……、タバコを吸ったことがない方の場合です。あなたのようなタバコを一日何箱も、何十年も吸うてはった方が肺がんになっても、この薬が効く遺伝子の異常が起こっていないのです。そういう方に限ってイレッサの副作用が強烈に出ます。それこそ命に関わるくらい」
だからこそ、タバコはすぐにやめてほしいと講演などでも口を酸っぱくしてお願いしているのですが、最近「でも加熱式タバコは大丈夫ですよね?」と聞かれることが増えました。
メーカーはタールが少ない、ニオイがないとメリットを挙げています。成分の分析研究が進み、普通のタバコと比べて少ない成分もあれば多い成分もあることがわかっていて、発がん物質については「多分少ないんだろうねえ」という想定はされています。
加熱式タバコに切り替えた人の追跡調査は始まったばかりで、本当に普通のタバコよりも発がんが抑制されたのか確認できるのは20、30年後。結果は神のみぞ知るです。
「禁煙の第一歩として、まず加熱式タバコに替えて、それからやめる」という人がいますが、私はそれに対しては違和感があるというか、かなりしっくりこない感じを持っています。加熱式タバコの成分云々というよりも、なんだかんだ言ってタバコへの執着を強めるような気がするからです。
結局、「人前では加熱式タバコ、飲みに行ったときや自宅では普通のタバコ」と、使い分けるだけでは、「タバコ」との縁切りにはならないのではないでしょうか。