ニセコもかつては西武だった

西武HDは、2006年12月、経営再建の一環として、プリンスホテルが保有する国内のホテルやスキー場など12施設を、米国大手金融機関であるシティグループのグループ会社に譲渡すると発表。売却となったのは、「ニセコ東山プリンスホテル」「ニセコ東山スキー場」「ニセコゴルフコース」「函館七飯スキー場」「湯沢中里スキー場」「表万座スキー場」など全国12カ所だった。売却額は、総額約62億円で、簿価86億円との差額約24億円が損失計上された。今にしてみれば、数十億円ぐらい西武なら何とかならなかったのかとも思うが、当時の日本はデフレ不況下にあり、日経平均は1万7225円(2006年末)足らず、インバウンドという救世主もまだない。どうにもならなかったのだ。

シティグループのもとで、2008年には、旧ニセコ東山プリンスホテル新館が「ヒルトンニセコビレッジ」として再出発。ニセコ初の国際的なブランドホテルが誕生したことは、現在に続くニセコ興隆における重要なターニングポイントとなった。その後、マレーシアの財閥YTLコーポレーションが、2010年3月、ニセコビレッジを総額60億円で買収し、2020年12月には「東山ニセコビレッジ・リッツ・カールトンリザーブ」を開業するなど開発が続いている。皮肉にも、西武から米国・アジアと所有・運営が移ってからニセコでは上手くいっているのだ。

ニセコの羊蹄山と霜で輝く木
写真=iStock.com/kazuto_yossy
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「景気が悪いと資産売却」を繰り返してきた

西武HDは、ニセコのホテルやスキー場を売却し撤退しているが、富良野や苗場などは売却することなく保持してきた。しかしながら、それから15年を経て、再びこれらホテルやスキー場の売却に手をつけることになったのだ。

相場の下落局面や景気が下向くと、リスク回避や損失穴埋めのために、虎の子の保有資産を売却するという短絡的な経営判断を繰り返してきているのだ。一方で、海外の投資家や外資系ファンド、事業会社は株価の向上と収益の確保を目的とし、ビジネスライクにリスクを取りながら最大限のリターン確保を目指し、プロフェショナル経営に徹している。それらの企業にとって、相場の下落局面や不景気は絶好の買い場であり、開発を進めるチャンスなのだ。

プリンスホテルは、「富良野スキー場」のほか、「雫石スキー場」「苗場スキー場」「かぐらスキー場」「六日町 八海山スキー場」「妙高 杉ノ原スキー場」「万座温泉スキー場」「志賀高原 焼額山スキー場」「軽井沢プリンスホテルスキー場」といった国内屈指のブランド力ある9つのスキーリゾートを所有し運営しているものの、相次ぐ緊急事態宣言もあり、これらプリンスホテル&リゾートの多くは休業中又は実質休業状態である。

筆者は、今年4月「『歴史ある不動産が外資に売られて残念』その発想が日本経済を低迷させている」において、「この先、例えば、富良野や苗場など西武グループが保有するスキーリゾートの不動産が、外資系ファンドなどへ売却される可能性があるのではないだろうか」と予想したが、数カ月もしないうちに現実化しそうだ。