スミス氏の変貌
ジュディの側から見れば、『あしながおじさん』は女子大生の成長の記録であり、楽しい大学生活案内です。が、ジャーヴィスの側から見ると、これは金持ちの道楽息子が小娘に翻弄される物語です。
一切返事を書かず、ジュディの学生生活に口を出さないはずのスミス氏は、彼女の行状が気になるあまり、やがて秘書を通じて、あれこれ指図してくるようになった。
2年生になったジュディは、クリスマス休暇を親友サリー・マクブライドの実家に招待され、はじめて「ふつうの家庭」の暮らしを体験します。
〈最高にすばらしい休暇を過ごしています〉と彼女はノーテンキに書きます。
〈家族もとってもすてき! 家族がこんなにすてきなものだとは夢にも思いませんでした〉
スミス氏=ジャーヴィスは、この手紙を苦々しく思ったのでしょう。翌年の夏、今度はマクブライド家の別荘に招待されたと喜ぶジュディに、その誘いは断れと秘書を通じて伝えてきた。昨年と同じようにロック・ウィローの農場に行けと。
信頼していたスミス氏のまさかの命令。ジュディには意味がわかりません。このころから、ジュディは少しずつスミス氏に逆らうようになっていきます。
反抗するジュディ
3年生になる9月。ジュディは、出版社に送った原稿が50ドルで売れたこと、奨学金の申請が通ったことを報告します。
ところがスミス氏はまたもや秘書を通じて、見も知らぬ人からの厚意を受けることは望まない、奨学金は辞退せよ、といってきた。
ジュディは断固、抗議します。
〈これは「ご厚意」などではありません。賞金のようなものです。わたしが一所懸命勉強して勝ち取ったものです〉〈おじさま、奨学金辞退のお話は拒絶いたします。これ以上あれこれおっしゃるならば、毎月のお小遣いも返上いたします〉
かわいそうな孤児を一人前のレディに育てるつもりだった道楽おやじの思惑を、彼女は軽く超えてしまった。これはスミス氏=ジャーヴィスには大きな誤算だったはずです。
2年生でサリーが級長選に立った際に彼女は書きます。
〈いいですか、おじさま、わたしたち女性が選挙権を得たあかつきには、あなたがた男性は心して自分たちの権利を守ったほうがよろしゅうございますよ〉
3年生に進級した後は、もっとスゴイことをいいだした。
〈あのね、おじさま、わたし自分も社会主義者になろうと思います〉
〈たぶんわたしは社会主義者になって当然の人間なのだと思います。だって、プロレタリア階級の生まれだから〉
プロレタリアなんて言葉が、まさか少女小説に出てくるとは!
女子大でジュディは社会の矛盾に気づき、階級差に気づき、変革の必要性も知ってしまった。「お嬢さまぶりっこ」に明け暮れていたジュディは、このころから自身の過去を見つめ、将来に思いを馳せ、自立への道を歩みはじめるのです。