今は患者の多くが入院するまで治療を受けられない

「それって言葉をかえると『重症化を待っている』ということなんです」

長尾和宏医師(兵庫県尼崎市の長尾クリニック院長)が言う。長尾クリニックではコロナ発生当初に発熱外来を立ち上げた。そこでコロナと診断した人はこれまでおよそ600人、入院できず在宅療養を24時間態勢でフォローしてきた患者は300人を超える。

「現状の体制ではコロナの感染判明から入院先が見つかるまで合計1週間もかかってしまう。その間にハイリスク者は死ぬし、重症化の可能性も高くなる。大切なのは治療までの時間。コロナは“時間との闘い”なんです。けれど今は診断された患者の多くが、入院先が見つかるまで“治療を受けられない”(=治療ネグレクト、放置)です」

長尾和宏医師
写真提供=長尾クリニック
長尾和宏医師

どういうことか。

コロナは現在、保健所を通して入院勧告や隔離、就業制限を行い、濃厚接触者や感染経路の調査が必要な「2類相当」(正確には「新型インフルエンザ等」のため、実質それ以上に厳しい)に分類されている。

つまりすべてが「保健所の管轄」になる。患者側が直接「医療機関とつながる」ことができないのだ。かかりつけ医がいれば電話で相談は可能なものの、かかりつけ医をもたない人が発熱症状などあれば、保健所を通じて検査を受けるしかない。治療も保健所の管轄下で進められる。インフルエンザ流行時によくあるような、ちょっと具合が悪いし熱が高いから近所の病院へ行って薬をもらう……とすぐに動けないのが、現在の2類相当である。

5類に引き下げれば、放置される患者がいなくなる

これにより「(コロナ)発症から治療までタイムラグが生じる」と長尾医師は訴える。

当初、長尾医師は悩んだ。本来、保健所の管轄である患者を診てもいいのだろうか。しかし一方で、医師法19条には「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければこれを拒んではならない」という応召義務がある。目の前の患者が熱が出て苦しいと叫んでいるなら、これを助けたい。コロナもほかの病気と同様に、自分が治療を請け負う。そう決意を固めたのだった。

コロナと診断した患者に対し、長尾医師は自身の携帯電話の番号を教え、毎日やりとりをしながら本人の体調が回復するまで24時間態勢でフォローしている。

「早期発見し、即治療。これは医療の原則で、そのほうが救命率も高くなるのは明らか。コロナに治療法がないという声がありますが、初期治療に使える薬はいくつかあります。僕はコロナ患者には全員、抗炎症剤を、ハイリスク者にはステロイドと在宅酸素を処方します。実はすでに昨年4月の時点から、肺炎を起こしているコロナ患者には肺炎診断時にステロイドを投与してきましたよ。みなさんどんどん良くなっていった。ですから町医者が一刻も早くコロナに感染した患者の治療にあたれば、コロナ死はゼロに近くなるでしょう。ただ僕だけでコロナ患者全員をみるのはもちろん無理なので、それぞれの地域の開業医総出でやりましょうと言っているんです。保健所を介さず、地域の開業医がコロナ患者を請け負える5類にすれば、放置される患者がいなくなるのです。今は“コロナだけが通常医療を提供できない”状態です」