「開業医が診ていたら手遅れになる」という大誤解

だが、コロナをインフル並みの5類に落とすというと、2つの指摘がよくなされる。

ひとつは、「軽症患者ならそれもいいかもしれないが、中等症以上の患者では開業医が診ていたら手遅れになる」というものだ。

長尾医師は「最初から重症な人はいない」と指摘する。

「みんな“最後の砦”ばかりみていますが、“最初の砦”が重要なんですよ。そこでいかにスピーディーに治療して重症化させないか。大病院の先生から『長尾先生と僕たちが診ているコロナの患者は違う』と、よく言われます。たしかに違いますよ。がんにたとえると、僕は早期がんを発見して内視鏡で治療しているんです。大病院では末期がんを診ているようなものですから、コロナの恐怖をより強く感じるという側面もあるでしょう。だから違うのは当たり前です」

長尾和宏医師
写真提供=長尾クリニック
長尾和宏医師

もし患者の立場なら、保健所に毎日体温や血中酸素濃度の報告をするくらいなら、自分を知る近所の医師に24時間フォローしてほしいと私は思う。「自宅療養」でも、必要な医療を受けられる。これは実際に「在宅医療」を経験した人は理解が進みやすいだろう。政府はもっと丁寧に国民に説明するべきだし、在宅医療を見下す医師は現状を知ってほしい。

在宅医療は医療機関より格下の医療行為ではない。自宅で肺炎を治すことだってできるし、人工呼吸器管理も行える。できる医療行為はかなりあるのだ。しかし保健所を介する現行の2類相当では、在宅医療ではなく、在宅放置である。

「感染しても大丈夫」ができれば、コロナ禍は終わる

そしてふたつめのよくある指摘は、5類に落として開業医が診られるようにすることで、感染対策がゆるんで、感染が拡大してしまうのではないか、ということ。これは、これまで通りの感染対策を続ければいいだけのことだ。

「万が一、クラスターが起きたら(今も起きていますが)、それも早期診断・即治療です。今の2類相当は“感染しないための分類”なんです。5類にすることで、地域で治療できるので“感染しても大丈夫”という空気が作り出せます。放置されて重症化した人は激減するので、重症病床は余裕ができます。感染しても大丈夫という政策を打ち出して実行することが“コロナが収束する”ということでもあるでしょう」

むしろ医療機関では2類相当であることで、“過剰な”厳重装備が足かせになっている。

多くの病院が今もフルPPEと呼ばれる防護具を身につけている。この着脱に要する時間も医療効率を下げている、とコロナ治療にあたる複数の医師の声がある。

湘南鎌倉総合病院の「転院搬送」の様子。スタッフはPPEを身につけている。
撮影=笹井恵里子
湘南鎌倉総合病院の「転院搬送」の様子。スタッフはPPEを身につけている。

私が密着取材した日本で最も救急患者を受け入れている湘南鎌倉総合病院の救命救急センターでは、通常はゴーグルとマスクのみで、感染リスクが高くなる場合の手技を行う際にPPEを義務づけていた。それでも院内クラスターは発生していない。長尾医師もほとんどが平服で、医療処置を行う看護師がPPEを身につけているという。