医療崩壊は金銭的インセンティブだけでは解決しない

コロナ禍という非常事態では、病院が患者を受け入れないという事実がクローズアップされた。こうした事態を避けたいのであれば、平時から医療者の過度な負担なしに「24時間365日断らない医療」が実現できるような仕組みが指向される必要がある。また「24時間365日断らない医療」に過度に依存しない、国民の良識ある受診行動も大切になるだろう。平時にできていないことを有事に実行することは不可能だ。

政府は病院にコロナ患者を受け入れてもらうために、空床確保料という潤沢な金銭的インセンティブを与えることで対処してきた。膨大な公金が投じられた一方で、国際的には少ない感染者数にもかかわらず医療システムはすぐに逼迫してしまっている。この事実は個々の医療従事者の献身的な取り組みとは全く別に、全体的なシステムとしてわれわれの医療提供体制が大きな問題を抱えていることを示唆している。

急性期の医療機能の分化の問題とともに、緊急事態宣言下における医療従事者の義務とは何か、将来に向けて明らかにされる機会も必要だろう。飲食店における営業の自由をはじめ、多くの人の基本的権利が感染抑制のため長期間制限される中、医療従事者には強制力を伴う診療協力や米国で行われているような病床拡大の義務化ではなく、病院によっては大幅黒字になるほどの強力な金銭的誘導が行われている。これはバランスを欠いているのではないだろうか。

ワクチンの普及とともにこれ以上の自粛の継続は難しくなっており、医療機能の強化という下支えのもとに経済を徐々に回していく局面に差し掛かっている。今回取り上げた救急医療体制の課題は医療提供体制全体の一部でしかないが、さまざまな面で、コロナ禍で浮かび上がった課題をポストコロナの医療に生かしていく必要があるだろう。

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